自由が丘武蔵野館ではトークゲストとして、池袋新文芸座には一般客として石井輝男監督オールナイトに訪れていた塚本監督。そうこれは、判り易すぎるくらい判りやすい、石井輝男と暗黒舞踏へのオマージュ作品。女優が海岸で踊るシーンはそれなりの飛翔力もあり、官能的だった。

さて塚本監督、デビュー以来評価されて来た独特のイマジネイションを、専門的な知識と綿密な取材で補強したまではいいが、肝心要の「パッション」が、やはりここにもどこにも見当たらない。復活後の石井監督と同じ轍を踏んでいる。

何故、浅野は焼却炉に飛び込まないのだよ？何故「涼子〜」と叫んで一緒に灰になってしまわないのだよ。文化庁への配慮？知るかよ、そんなもん。別の女に「ごめん」「ありがとう」なんて云ってる場合じゃないだろう、馬鹿みたいだ。おまけに最期は是枝の『ディスタンス』とモロ被ってるじゃないか。Ｃｏｃｃｏのエンディングテーマも英語の発音が悪過ぎて聞いてて恥ずかしくなるじゃないか。

この監督は、結局、スタイルだけで、中身がカラッポなのだ。いや、言い過ぎなんかじゃないよ。自分で広げた風呂敷にしっかりした決着も付けられないなんて、カラッポもカラッポだ。それこそ単なるエログロだ。（云っておくけど乱歩は愛の作家です。そこが横溝正史なんかとの大きな差異です）

題材と、浅野が鏡に向かって云う「あ、あ。」というのが凄く良かったので三点献上するがね、次は、次こそは「パッション」を描ききっておくれよ。頼んますよ。