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[コメント] 雪崩(1937/日)

不自然さの意図。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前衛芸術家村山知義の構案に拠ると云う、独白場面の映像処理についてだが、確かに「映像処理」として稚拙極まり、興醒めを誘うこと甚だしいのだが、この奇抜な手法の実たる目的が、「映像表現」や「内情補足」に置かれていない、ということには、一応、気付いておく必要がある。

五郎(佐伯秀男)とやっちゃん( 江戸川蘭子 )の「底意」の過剰な描出は、裏を返せば、蕗子(霧立のぼる可愛い!)とパパ(汐見洋名優!)の、「二心の不在」「自己一致性」の強調であり、この前者後者のコントラストは、五郎が無理心中を図ろんと回帰するホテルの一室、決意する蕗子のアップショットを以って、一気に頂点へと達する。

浅はかと思われた作り手の狙いは、ここに来て逆転、十二分の挽回を果たしているのだ。

更にその直後。

五郎が、妻に、はじめて「人間」を発見する。

それは無理難題を受け入れた、貞女の鑑として伝説めいて輝く彼女に於いてではない。むしろ、その反動で、狂おしい内面を、堪えかねる愛人への嫉妬を、僅かながらも吐露するに至ったひとりのおんなに対してである。泣き喚く彼女に、これまでとは違う、赤裸々な美しさを、ようやく見い出したのである。(私は確約するが、この夫婦は、今後少なくとも数年間は、深く愛し合うことになろう。また、その是非について、他人がどうこういう資格は、勿論無い)

そして舞台は飛ぶ。

一抹の解放を得た”青臭いドストエフスキー風”室内会話劇が、一足飛びに、晴天の砂浜へとジャンプする。

そこで交わされるのは

「外国でもいけば?」「いいのよ、別に。」

実に成瀬らしい、血縁者の「自然な」会話そのものである。

(評価:★4)

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