坪内散歩東野英治郎の英語塾の先生が大変良い。散歩先生（いい名前だ）は映画では英語は口にしない。東野英治郎に英語は似合わない。漢文の先生が似合うのだ。小津安二郎の『秋刀魚の味』の瓢箪は漢文教師だったではないか。

　役者の顔がみんな良い。佐藤オリエのコンサートを聴いている山崎努の表情が恋をしている顔なのだ。脇役で印象的なのは寅さんが産みの母親と勘違いしてしまう風見章子だ。ミヤコ蝶々の経営するラブホテルで働いている。「バイブレーションのスイッチどす。鏡はお好きどすか？」しみじみ良い味を出していた。旅館に帰ってから「そうか泣け！ワシも泣く」と東野英治郎が一緒に泣いてくれる。名場面だなぁ。

　残酷な見方をすると東野英治郎は渥美清の演技を「食ってしまう」役者だった。それで散歩先生は江戸川の鰻を食べる前に急死してしまったのだと思う。二人の共演をもっと見たかった。『続・男はつらいよ』は二人の役者の静かな火花を散らす競演が見られる貴重な作品だった。