[コメント] どん底(1957/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
音声が聞き取りにくかったという人は、DVDで字幕バージョンにして見ましょう。入り組んだ人間関係や台詞も良く分かります。監督助手に野長瀬三摩地のクレジットがありましたね。「ウルトラセブン」シリーズを手がけた人が「黒澤組」で修行していたなんて意外でした。
この作品ですがゴーリキィーの原作は読んでいません。ロシア文学って登場人物の名前が長くて覚えにくいですね。読まず嫌いかも知れませんけど。
深いですよ。この映画。役者が個性的な人ばかり集めていてみんな上手い。一番感心したのは、遊び人の喜三郎三井弘次の虚無的な演技です。4年7ヶ月牢屋に入っていたと後で分かるのですが、ニヒルな表情と口調は主役と言ってもいいくらいです。
三船敏郎が霞んで見えてしまいます。この映画は嘉平左ト全が長屋に現われて去っていくまでのストーリーです。(乱暴な言い方になりますが)お遍路姿の好々爺然とした嘉平の表情がラスト近くで少し変化します。大家中村鴈治郎と会話するシーンです。
嘉平左ト全は「朝起きて晩寝る」だけの長屋の人達に「人間は何かをつっかえ捧にして生きている」と言い残して去っていきました。「ゴローロップに酒毒が…」が口癖の役者藤原鎌足には「酒飲みを治してくれる寺を紹介する」と約束しました。
役者はその言葉が「つっかえ捧」だったのです。鋳掛屋東野英二郎は、職人という誇り。旗本千秋実にいたっては「世が世なら俺は旗本で」という嘘が「つっかえ捧」です。
捨吉三船敏郎は、おかよ香川京子と逃げ出す事を夢に見ています。突然姿をくらました嘉平。大家中村鴈治郎も死んで大宴会が始まります。このシーンが素晴らしい。喜三郎三井弘次の独壇場です。……そして三井弘次の顔がアップになって「ちぇっ。せっかくの踊りぶちこわしやがった。ばかやろう」拍子木の音。キーン。パーフェクトです。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (8 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。