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[コメント] レッドクリフ Part II ―未来への最終決戦―(2009/中国)

批評とか評論とかを超えた作品だった。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







批評空間なので、もっと辛辣に批評しないといけないのかなぁ・・・と思うんですが、今回のこの映画には満点を与えたいと思います。細かいところで色々”どうかなぁ〜”と思うところもたくさんありますが、ジョン・ウーの気力に脱帽して満点です。満点で良いと思います。

しかしながら、これほど注目を浴びた中国映画がかつてあったでしょうか。中国という民族を描く牧歌的な映画が主流だった時代が嘘のようなハリウッドスタイル。そして莫大な資本をかけた大画面の迫力。この四半世紀の中国映画を見ても、その成果は著しい変化を遂げています。

今、たまたま読んでいる本が日本の幕末を題材にた本なのですが、ここでも”三国志”的お話が重なります。本作でも明らかなように、”自らのための軍”なのか”人民のための軍”なのかで、軍の大小は相殺されるということですね。前者がチャン・フォンイー演じる”曹操”であり、後者を指すなら敢えてユウ・ヨン演ずる”劉備玄徳”ということになるでしょう。

例えば幕末の徳川軍と薩長の対峙がそうでしょう。

劉備・孫権連合軍の関係も幕末の薩長と似ています。敵の敵は味方。もともと薩摩も長州も相反する集まりで、もともとは敵同士です。しかし、対徳川という同じ目標を掲げたときに、連合軍として大きな力を発揮することになるのです。まさに三国志に記す歴史と同調します。

さしずめ金城武演ずる”諸葛亮孔明”こそは、幕末で薩長を結びつける”坂本竜馬”に類似するのかもしれませんね。

孔明の策士ぶりは驚くべきもので、この作品では10万本の矢をかき集めるシーンで顕著になりますね。実にユニークな発想。そして風を読む力。この発想が実に面白かった。

この映画では孔明の見抜く風が力を発揮します。10万本の矢もそうですが、火責めで決戦となるときもギリギリまで風向きを待つなど、この風の読み方が決選を左右します。

政治の世界でも風向きは常に付きまといます。そして三国志においても時代の風向きの中で戦力が左右するんですね。とてもわかりやすいシーンです。

リン・チーリン演ずる”小喬”も重要な役割を果たします。風向きが変わるまで”曹操”をギリギリまで茶の湯で誘い進軍させません。逆の意味でこのシーンは、黒澤明監督の『』に出てくる”楓の方(原田美枝子)”にも共通します。”曹操”にとっては結果的に悪女となってしまいました。この語り口も見事だなと思いました。

ここに出てくる君主で最も魅力的な人物は”劉備玄徳”でしょう。しかし、この映画では敢えて劉備を主役とせず、またその家臣たちや孔明を中心に置かず、むしろ三国志の中では、かなり地味な存在であるトニー・レオン演ずる”周瑜”を中心に据えました。これが最もわかりにくいところですね。

しかし冷静になって考えると、この無欲で自らの主も二代目で、それほどの義理があるわけでもない、そんな彼の生きざまをなぜこの三国志という大きなドラマの中心としたかといえば、もともと三国志の中心は義理と信念であって、自らの命を顧みず国民のために尽くす姿が政治の世界から失われてしまったことを描こうとしているのではないかと思いました。

ジョン・ウーはすでにハリウッドで大作を作れる監督です。そんな彼がアメリカを離れて、敢えてアジアの資本を集め、最後は自らの私財をなげうってまで中国映画にこだわったかといえば、それはブッシュ政権のアメリカに対する挑戦だったのではないでしょうか?

ブッシュこそ私利私欲のためにアメリカ大統領になった男。ここで言う曹操そのものです。自らの軍をゴミのように扱い、不毛の戦争によって自らの私服を肥やす戦略。そんなアメリカに対して、アジア主導の映画を作って挑戦したのがこの映画の目的だったのではないかと考えました。

そんな彼の考えを理解すればするほど、この映画の価値が高まるのではないでしょうか?

2009/04/16

(評価:★5)

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