コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 元禄忠臣蔵・前編(1941/日)

すぐ判るのは「境界」への意識。見事なクレーン撮影が徹底してそれを強調し続ける。☆3.9点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







刃傷松の廊下からして唸らずに居られぬ見事なセット。もう二度と見られないと思わせ、美術だけであれば☆5点の価値がある(建築監督=新藤兼人)。

引いた画面で映し出されるのは「舞台」にいる「人間」。しかし突き放した鳥瞰的な感覚はない。「運命」に閉じ込められた「人間」に、離れて見守る如くカメラは緩やかに移動する。スペクタキュラを、スピード感を表現する為に用いる現代の移動撮影とは、全く異質である。

移動するカメラに悉く現れるのが「境界」である。欄間・垣根・門塀が視る者を遮りつつ、しかし登っていくクレーンがその奥を映し出す。それは越えられない運命を強く印象付ける。後編ではあるが、甲府中納言にして後の6代将軍=徳川綱豊(市川右太衛門)が、浜手屋敷(現在の浜離宮)で浪士の一人(富森助右衛門/中村翫右衛門)に心を寄せる場面がある。そこでは2人の間にある境界が、重要な意味を成している。

前編の最後を飾るのは内蔵助が妻りくを離縁する場面であるが、最後に去っていく籠を主税が見送る迄の長回しが秀逸である。当初籠が角を曲がるだけの所を「画が抜けないので押詰まった感じがする」と新藤が言ったので、溝口健二監督が「じゃあ竹藪を切ってしまえ」と言ってああなったそうだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。