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[コメント] ジョン・ラーベ 南京のシンドラー(2009/独=仏=中国)

歴史を考える上で、避けられないもの。☆3.8点。
死ぬまでシネマ

南京事件は一般的には南京大虐殺として知られているが、虐殺否定論者の反攻が盛んになっている現代では、刺戟を避ける為に南京事件と称される事が多くなってきた。それは中国側の死者30万人という見解と、それによる歴史上稀に見る残虐行為という国際認定に対し、国粋主義者を中心とした強い反発があったからであるが、それは「自虐史観」と「自国美化・修正主義」との間で激しい論争を引き起こし、一般市民からすれば忌避すべき問題としてしまった。

嘗て戦争を肌身に知る世代は、戦争というものの全体が、死生だけに留まらず如何に生活全体を、ひいては個人の内部迄を蝕むかという事を骨身に感じていたので、思想の左右に留まらずその悲惨を喰い止めようとする意志があった。しかし現政権を見れば判る様に、戦争が空想化した現代に於いては、国益だの私益だのを正当化してそこから演繹する論理が広がりつつある。

日本軍が大陸まで押し寄せ、他国人に何をしたのか、客観性のある日記・資料を見ただけでもそこから想像される光景はおぞましい。私たちの祖父や曾祖父を侮辱させないという論理は、その「真実」を前にしては余りに愚かに見える。数の多寡はあろう、戦犯としての責任論も個々にはあろうと思う。しかしそういう事ではないと思う。

まぁこの映画はそうした論争に「虐殺」側から強力に捻じ込もうとするものではない印象を受けた。ラーベの存在は否定しようも無く、彼が自宅の庭にまで何百人の中国人を匿ったのは事実だ。全ての観客が、この映画から反発でないものを受け取って欲しいと思う(勿論反発もあっていいだろうし、私も幾つか感じたが)。

他のHPからの引用をお許し願いたい。まず或る意味原作であるラーベの日記(邦題「南京の真実」)について、ユダヤ人・日本軍関係について原著にはない加筆がされているという批判がある事。原作の出版者は「ラーベは“南京のシンドラー”ではない」という文章をつけているのに、日本版では削除されている事。これはNYタイムズ紙が「南京のオスカー=シンドラー」と持上げた事に対しての反論だそうだが、その意は、シンドラーと異なりラーベには商業上の利益は無かった、という意味のようだ。

また映画のHPにはラーベの孫であるトーマスとエリザベータから日本の観客に寄せられた書簡が載っている(http://johnrabe.jp/thomas_rabe/)が、彼らは本作品の世界公開が「日中関係の新たな火種にならないか、民族相互理解の妨げにならないか、と大変に心配」した、とある。またそこには作品に関する原作との相違点(改変部分)についても解説されているので、ぜひ参照願いたい。

(評価:★4)

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