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[コメント] トゥモロー・ワールド(2006/米)

完成度が高い見事なSF。
死ぬまでシネマ

「SFは未来(空想科学)から現在の我々に通ずる何かを透徹しなければならない」と俺は考える。

キュアロン監督は「『ブレードランナー』にはしたくなかった。」と語ったというが、『ブレード…』はそれはそれで人間の根源的な問題を深く捉えていた名作だと思う。監督の言わんとするのは「遠い未来(空想)ではなく、現在」という事だろう。この映画はまさに、近未来という形を取りながら他の作品に無いくらい現在の社会を糾弾している。

一介の小役人がテロに巻き込まれ、英国本土で悲惨きわまる殺戮が行われている。この映画は英国人にも衝撃を与えたと思われるが、しかし、殺戮はいま現実の世界でも行われている。先進国の国民が「それをみていない」「その場にいない」だけなのだ。キュアロン監督のメッセージは多くを語っているが、俺はこの映画に「イラク」や「レバノン」「旧ユーゴ」の殺戮をみた。

かように監督は「SF然としたSF」を拒絶しているが、俺にとってこの映画で残念なのもその点だ。SF映画の楽しみは冒頭の作品世界を説明し大風呂敷を広げるカット、そして壮大かつ深遠なイメージへ収斂するラストシーンなのだが、この映画はいずれも淡泊で、通常のSF映画の中央を切り取ってきたようになっている。それがこの映画の迫真性を高めているものの、映画史に無事SF映画の名作として記録されるかが心配だ。

蛇足)あくまで「指をひっぱれ」と要求するジャスパー(マイケル=ケイン)、あんたは真の英国ピップだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ロープブレーク[*] ジョー・チップ[*] プロキオン14[*]

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