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[コメント] バロン(1988/英=独)

ありえないものを丹念に丁寧に描いた結果、不思議な感動を呼び起こす作品になっている。醒めつつある夢の様な哀しさ。 アラや欠点も沢山あるけど、こういった作品とは滅多に出会えない。 不満といえば、製作途上のまま放り出されたみたいなとこかなあ。
YO--CHAN

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 おとぎ話での活躍が、結局現実の苦境を救うというねじれ設定となっている(実も蓋もない言い方)。当時の米国IT企業とか見ると、意外と無茶なテーマではないかも。

 ミロのビーナスそのまんまを実写でやって、空中を踊って、シャンデリアに触れて「チャララ」という音までして、下からはステレオ音声で早く帰ろうという声が響く(「オームはどうなったんだよぉー」なんてコントもあったなあ)

 こういった事を(一部シークエンスを除いて)、非常に丹念に描いている。

 廃墟となった街から、奇妙な気球があがり、劇場の女達は投げキッスで送り出す。

 丁寧に、お金をかけて作られた廃墟の中のオンボロ舞台が、その後の展開を予告する。

 おとぎ話と正面から向き合う姿勢、虚構への実直な姿勢が、見事な感慨を引き出している。

 ・・・と、感激するのは自分だけ?(汗)

 ※スタッフは、現実に(こればかりはおとぎ話でなく)ひどい目にあいながらの撮影で、さすがのギリアム監督も「バロン」の事はちょっといやな思い出らしい。

 プロデューサーは逃げるし、お金は足りないし、何かやろうとすると保険会社が足を引っ張る。

 なぜか、脚本家や共同プロデューサーも結構大きな役に入ってる。

 共同プロデューサーさんなんて(偉い役人さんの脇の人レイ・クーパー)プロデューサーの後始末とかすごく大変だったかもしれない。

 そんな、ある意味本作の包囲された街の人と同じ様な境遇にありながら、なんとか彼等は映画という気球を完成させた。

 映画が、現実にどれだけ救いを与えるか判らないが、主演サラ・ホリー嬢はその後、会社の大反対を押し切って湾岸戦争に反対し、その後ユマ・サーマンそっくりに成長したそうです。少なくとも一人は、「バロン」の大影響を受けたという事で。

 ※先日、リマスタリング等?で映像が綺麗になった様な版をDVDで見ました。

 満足な一方、個人的に「あってはならない改善」もあり、どうにも残念で勝手に書き捨てさせていただきます。些少なことですみません;

 前出「内装をやりかえたばかりの」舞踏室のシーン。

 高揚に次ぐ高揚でついに(ギリアム風の)天使がリボンと共にやってくる場面。

 合成表示された天使のザラザラのモザイク状の画素が、露骨に見えてしまう部分があった気がします、当初は。

 それが、DVDではさりげなく修正され、まともな天使の絵になっているんです。

 ここは、監督が敢えて露骨にCGな部分を晒すことで、「これ自身も映画という虚構なんです。あなた騙されてるんですよ。」と告げる大事なとこだとずっと(勝手に)思っていました(笑)

 言い換えれば、「バロンの法螺話と劇場の被災者」の関係が、「この映画の製作者と映画館(又はDVD)の視聴者」になぞらえているのだと・・・

 それを真面目に直してしまうなんて、DVD屋さんひどいというか、普通に有難うと言うべきか(笑)

 ブルーレイで再確認しなければw

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)週一本 けにろん[*]

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