コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 花束みたいな恋をした(2020/日)

「本作の一番のポイントはポップカルチャーによって恋愛関係を築き、労働によって恋愛関係が崩れる点だ」と菅田将暉が言ってた。実に的確な紹介だと思う。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







序盤は特にゴダールやロメールを彷彿とさせる固有名詞や日常的な哲学語り満載の会話劇なので、そこがまず好みの分かれるところだと思う。

絵的にハッと胸をつかまれる場面はあまりないのがヌーヴェルヴァーグとは違っていてそこはちょっと残念だけど、細かなエピソードはあるある話のオンパレードでおもしろいし話の展開にも無理がないしで、個人的にはたいへん満足した。

特にファミレスの場面は秀逸。顔見知りのアルバイトのひとからチラシを渡されるところとか、隣に座っていた自由業っぽい年上のひとにつかまって延々と話を聞かされるところとか、告白の場になったり別れ話の場になったりするところとか。

近くのテーブルにいる他人の会話にもつい耳を澄ましてしまうところとか。その様子や内容に勝手に傷ついたり心配したり思わず笑ってしまったりするところとか。

自分のなかのもう忘れかけていた思い出がいちいちフラッシュバックしてきてドキドキした。若い頃ってこんなことあったよなあって。特に「知らないおじさんにつかまり延々と特殊な話を聞かされる」というのは個人的によくあったな…。

ともあれ、ファミレスって、ちょっと前までは24時間ずっと居座れたのもあって、時間が経つにつれてどうでもよいことも大事なことも口にできる不思議な高揚感のある場であった気がする。この映画は、オシャレなカフェやクラブなども登場させつつ、どこにでもあるファミレスこそをみごとに活用してた。麦も絹も決して特別なひとではないからこそ、この巧みなファミレス活用は正しいと思った。

恋愛関係が崩れていくくだりも実によくできていたと思う。

まず、亡くなった先輩に対する距離感の違いなどはモノローグで語られつつも、一番コアな部分、「共有していたはずの宝物が相手にとってはどうでもよいことになっていると知った瞬間の寂しさ」については表情のみで語られていたのがよかった。この映画はまぎれもなく会話劇だけど、ちゃんと大事なところは映像で伝えていたし役者たちもしっかりそれに応えていた。これは映画として実に正しいありかただと思った。

また、「夢を追う男と現実を受け入れていく女の話」はよくあるのに何故その逆パターンはないのだろう? とずっと思っていたこともあって、タトゥーカップルも出しつつ主人公たちはまさにその逆パターンなのも個人的に小気味よかった。そこは家庭という重しのせいなのだろうけど仕事人間と化す男と、いつまでも当時の感覚で趣味を追い続ける女のカップルというのも実際にはある…あ、我が家か!なので。

細かいところでは、絹はラーメンブロガーだったからか食事前にまず食べ物の写真を撮る習慣があり、麦は麦でタンクの写真を撮るという趣味があり、そこを意識させた上でのスマホで互いを写しあいつつの告白シーンは素晴らしかった。演出のためのスマホ越しではなく、彼らの日常ならではのスマホ越しということが伝わってきて全く違和感がなかった。

信号待ちをしながらのキスシーンもよかったし、最初と最後がストリートビューでつながっているところもよかった。幸せで、そして同時に少し切なくもある見事な回収だった。

回収といえば、出会いの日に行ったカラオケ店でのきのこ帝国(クロノスタシスは名曲だよね!大好き!)が店を出てからの道中まで続きしっかり印象づけておいた上で、別れてからのモノローグで活動停止にふれるのも巧いなあと思った。

別れると決めてからの会話で、絹も(麦には言っていなかったけど)静岡の件のレストランに行ったと打ち明けたときはニヤニヤ笑ってしまった。ニヤニヤついでに、十中八九、絹は浮気したことがあったのだと思った。オダジョーはそのための出演という理解でほぼ間違いないと思う。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)ゑぎ[*] DSCH ペペロンチーノ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。