何故ドイツで虐殺が行われたのか… えっ？そうすっと軽く二千年はさかのぼる？まあ、取り敢えず一次大戦後のドイツからでいいですから。それがないのでシンドラーがドイツ人の中でただ１人の正しい者として描かれてしまう。

逆に言えばあの何千万人もいるドイツ人の中で目立った人命援助をしたのがこの主人公のみと言うのが不自然だと思わないか？現在のここでコメントを書いている人達でシンドラーの立場に立ってもナチスが怖くて私にはそんなこと出来ない、と思う人がどの位いるのだ？自分もそうだしほとんどの人が彼と同じ行動をすると信ずる。（現在のドイツ人だってそうだろ）

ところがあの時代に自分がドイツ人でヒットラーの演説を聞いていたらおそらく当時のドイツ人と同じ行動をしていたのではないだろうか。結局人間は時代と環境によって政治思想はどうとでもなってしまうと思うのだ。そういう意味で言うとシンドラーのとった行動は（最初損得から始まっていたとしても）当時の価値基準から言ったら最大の賞賛を与えるべきだろう。

ところで監督がこの映画を撮影するにあたって細心の注意を払っていたところが見受けられる。まずナチス。まるでユダヤ人大量虐殺はナチスのみによって行われたように撮影しているところ（しかもわざわざ狂信者にして）。実際はほとんどのドイツ人、イギリス人、フランス人、その他ヨーロッパやアメリカの人達が（嫌われ者の虐殺に関して）見て見ぬ振りして実質虐殺に荷担していたと思った方が正しい。しかし、それを正しく描いてしまうとドイツ人のみならずユダヤ系以外の大半の人達が不快に感じてしまう。

今でこそナチスが許せない虐殺を行ったから自分達（主にアメリカ、イギリス）は立ち上がった、と言っているが実際は「親戚がいるイギリスへの空爆と真珠湾攻撃にぶちぎれたアメリカ国民」、「フランスまでならほっとくか」と思っていたイギリス人が自身に身の危険を感じたから始まった戦争。ユダヤ人の為では無くあくまで自分達のため。最後に憎いナチスの連中がアメリカ、イギリス、フランスの兵によって蹂躙されるシーンがあったら映画的にはより好評だったはずなのにそれをしなかったのは監督がユダヤ人のこの気持ち（助けて欲しいときに無視された）も察しているからだろう。

もしオスカーなどの名声が欲しかったらアメリカ兵がドイツ兵を派手に殺すシーンを入れるはずだ。ていうか、俺なら『プライベート・ライアン』を間に入れる。

ベトナム戦争の時、裸の女の子が泣きながら逃げている写真が全米に衝撃を与えた。悲惨さを伝えるのに効果的と思われている節がありこれ以降どこかで戦争が起きると必ずこの手法がとられる。正直、あざといと思うが事実これで無関心層の人達が一気に反戦に傾くなら「安くて効果的」な手だと思うのでどんどん使うべきだろう。

（極端な例えだが昔イルカを日本の漁民が殺したことで世界中からバッシングされた事件があったが「イルカ」が「赤い服の女の子」と同じ効果があることを当時の日本人は自分も含めて理解できなくて困惑した記憶がある）

実際、当時のアメリカに欧州ユダヤ人を移民として受け入れる案もあったはずだ。しかし結局は「使えるユダヤ人」のみが受け入れられたのもシンドラー的だと思わないかい？