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[コメント] 風立ちぬ(2013/日)

スペックを上げていくという事
torinoshield

機械は部品点数が多ければ間違いは増えていく。学校のテストで1万の出題をされたとして1万の正解が必要とされるのが設計だ。ただし人間だから絶対に問題は起こる。そこで分解出来る様にしておいて間違いの部品だけを再発注する。分解する為にはボルトやねじが必要となるが各部品の精度があるので部品間の穴ずれが起こる。

設計者はこのずれを考慮に入れて設計する。今であれば3mぐらいのボルト穴間でもずれは0.5mm以内には実質収まるが昔は加工精度が悪いので2〜3mmずれたはずだ。ベテランがいなくなり新人や女工さんがやればそれらは倍増する。そういう中での設計となれば現代とは全く違う発想が必要となる。

なぜこんな事を延々書いたかと言うと映画中に空気抵抗を抑える為にビス頭を皿にした、という話が出てくるからだ。皿ビスは部品の表面から出ないで中に埋め込まれるからもちろん良いのだがボルトの下穴が円錐になっている。これが何を意味するかと言えば上に書いたズレが0.2mm程度しか許されなくなってしまう。1mは1000mmだから公差を入れるのだとしたら1000±0.2と表記する。現代でも設計者と加工業者が打ち合わせで図面を見せたら「ここの公差はどういう意図ですか?(高くつきますよ)」と速攻問われるレベルだ。

もちろん設計者は皿を使う、という時点で加工業者に無理難題を押し付ける事になってしまうのだから夢の様な設計をしていればいい、というわけでもない。映画上では設計者が寝ずに頑張っていたが同じくらい加工業者も死ぬレベルでやっていたはずだ。今風に言えば完全なブラックだがこういった人々の延長に今の技術大国があると言える。

日本では戦争前と戦争後で全く違う政治と人と考え方という分断型思考があるわけだが少なくとも技術に関して言えば戦前も戦後もない。延々と続く技術競争の延長に今がある。日本の技術が戦後、平和になってから作られ始めたものではないということを映画は語っているわけで戦前全否定の人が多い世代の監督なのにどうしたもんか、と思っていたら監督の実家って戦前から飛行機の部品作ってるのか。

(評価:★4)

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