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[コメント] キル・ビル Vol.2(2004/米)

各章を毎週TVで見るというシリーズだと思えば完璧
torinoshield

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







タランティーノはどこの国の何年辺りの誰の作品かを 色調、カメラの使い方、録音方法、SE、脚本などで見ている。 恐らくこういう見方をしている彼の事だから昔のビデオや映画はネタとして宝の山だろう。

音楽で言うとジミ・ヘンなら演奏だけではダメで当時の安そうなドラム(ホントは高いだろうが)&叩き方の癖、湿度、つぶれ気味のマイク、すぐピークがくるオープントラック、いなくてもいいくらいのベース、癖のあるミキシング等々いくらでもある。これに作曲のセンス、本人の気分(酔い方)、歌い方、マイクの種類、向き等々・・・しかも同じ人でも時代やスタッフでその条件は全く違う。

今の音楽はこれらの条件を完全にマニュアル化してしまったから道をはずせない。 癖のあるミキシングをしたらそれは下手なだけ。つまり無限に広がる制作の可能性を自分で勝手に 狭めてしまっているのだ。これは映画に対しても同じ事が言える訳で制作者の癖を許容できない所まできている。

過去の作品の「癖の集合体である」偶然の奇跡を再び起こすのは非常に難しい。 パクるのは簡単。しかしパクりものに面白さがないのは当然である。何故かと言えば決定的に熱意が相手に伝わらないからだ。熱意が伝わらないんじゃない、そもそもそれが制作者側にあるのかも疑わしい。

でもね、それで奇跡を起こせると信じてるんじゃないのか、タランティーノは。彼はどこかで見たような シーンを多用しても熱意は十分伝わってくる。大事なのはこれで、結局情熱があるかどうか、 体育会系風に言えば最後は根性と気合があるかどうかなわけだ。

恐らく沢山の方が指摘している前半のハイテンポから最終章の超スロー会話は やってみたかったノウハウの一つなのではないか?殺し屋たちの時間配分の バランスの悪さも、TVシリーズでいったら一人目はパイロット版。二人目は番組大ヒット。 それで無理やり続編を作らされて最後は尻すぼみ、みたいな。こういう作品、彼は 未だに最終章まで愛してるんじゃないのかな。

また映画上での常識のライン引きもかなり巧妙だ。例えば『ローマの休日』に宇宙人が 出てきたら誰でも驚くと思うがこの映画は剣の上にひょいと乗ってしまう仙人がいたかと思えば 子供とおねむタイムのTVを見て愛を感じたりもするのだ。同じ映画でやるこっちゃない。

結局彼は未だに錬金術を信じて奇跡の映画を作り出そうと時代を超えたノウハウを駆使して 今の映画が失ってしまった奇跡のバランスを生み出そうとしているのだ。そう感じた連作だった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)おーい粗茶[*] 浅草12階の幽霊 ホッチkiss[*] べーたん 死ぬまでシネマ[*]

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