[コメント] 火垂るの墓(1988/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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幼い命を放置し、そして自らも、死んだ。
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高畑勲は酷い。そしてこれは非道い映画だ。実はこの物語に戦争はあまり関係ない。自我を持ち、無知のまま生きるありふれたボンクラ少年が、ふいに極限状態に放り出された時、彼はどう生きるのか、そして共にある幼い命をどう生かすのか、この映画のテーマはそこに尽きるはずだ。しかし、この映画に成長はない。少年は「言ってる事はもっともかもしれないがなんか言い方とかやり方とかムカツクから」という理由で大人の言葉に耳を貸さず、頑なに「なんとかなる」という幻想にしがみつき、幼い命を放置し、そして自らも、死んでいく。全く非道い話だ。しかし僕はこの少年の姿にムカツキつつも同情の念を禁じ得ない。そう、あの主人公の姿はむしろ僕らボンクラ現代人の姿じゃないか。そして高畑勲は、それをおそらく分かってやっている。
この映画に問題があるとしたら、その登場人物の描き方にある。この映画ではそんな主人公とその妹を圧倒的に美しく描き、実は真っ当なことを言っているおばさんをひたすら厭らしく描いている。そしてそれが多くの誤解を生んでいる。もしそれが逆だったら?物語としては何も変わらないし、むしろ主人公達が何故死ななくてはならなかったのか、より明確になるだろう。そして観客も無駄な涙を垂れ流さずに済むのだ。しかしそこに高畑勲のいやらしさと凄まじさがある。非道い話を美しく描く、そここそが「映画」であり「アイロニー」であるのだ。どちらにせよこの映画は悲しい映画だ。悲しい僕らのボンクラ映画だ。だから、とてもじゃないが僕にはこの映画に低い点数をつけることなんてできない。
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ところでこの映画を現代風にアレンジするとどうなるだろう。
「両親を不慮の事故で亡くしたひきこもり少年が、監禁していた幼女を為す術もなく徐々に弱らせ、死なせてしまう。そして少年自身も、ただなにもせず、死んでいく」
こんなところか。うわー。やっぱ非道え話だ!
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