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[コメント] パッション(2004/米)

100年目の欲望。
ジェリー

欧米で映画が発明されてほぼ100年。この映画を撮りたいという欲望にかられた映画制作者はこれまでもいたと思う。しかし、ここまで手抜きなく、おそらくほぼ聖書に忠実に撮ろうとした人はいなかったであろう。

不思議な映画だ。我々が通常、「映画」と呼んでいるものと同じ媒体であろうとする意志が感じられない。確かに俳優がいて、監督もいて、製作スタッフがいて、配給会社がいて、いわゆる「映画」と同じ興行形態で映示販売されている。しかし、聖書に関する題材を基にした通常の映画は聖書をネタに何か話を作ろうとする。この映画は、聖書そのものに肉薄しようとしている点で、実に異質だ。それはどういう点において異質なのか。

「彼」が何者であるかという説明を、映画は一切しない。ナザレのイエスという名前しか出ない。しかし、「彼」はあの「彼」、誰もが知っているあの「彼」。観客が持っている外部情報を周知の前提として何の説明もない。しかし、この映画はやはり説明なのだ。しかも、純粋な説明以上のものになろうとしないその純粋さが怖いくらいに徹底しているという特徴を持ったそれである。

敗れてぼろぼろになった肉体と血の表現は、映画の最も得意とする領域。2000年にわたるキリスト教美術をたかだか100年にみたない映画芸術がフォローしつつ、新たな美として表現しようとする意志は素朴でかつ不逞。しかし、実に野心的で、それは結果として成功している。

悪くないよ。

(評価:★4)

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