[コメント] 晩春(1949/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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正面からのバストショットは小津映画の定番だけど、『東京物語』や『麦秋』と大きく違うのは、その役者たちの表情。笠智衆も原節子も、他の映画の杉村春子と同じくらい表情が豊かなのに驚く。
原節子が狂おしく嫉妬の炎を燃やせば燃やすほど、のほほんと微笑む笠智衆の存在が高みにあがっていく。それぞれの表情が素晴らしく良い。笠と原の表情のみ追っているだけでも映画を堪能できる。
能を観ているシーンなど、セリフは一切なく表情とわずかな動作のみの演技だが、笠、原そして三宅邦子、それぞれの表情が、この映画の全てを語る象徴的なシーンになっている。能の舞台に目をキラキラさせて見入っている笠が自身の再婚などまるで考えてないことは映画の観客には明らかだが、そのことを原がまったく分かってないこともまた明らかになる。いったん笠に向かってお辞儀した三宅が、舞台に戻した顔を振りなおして原にも挨拶する、そのシーンも印象的。
一方、ラスト近くの笠の説教シーンは大して印象に残らない。これに限らずこの映画のセリフにはあまり見るべきものがないように思う。さらにいうと有名な「壺」は私には全く印象に残らなかった。これはさすがに観方が偏り過ぎと言われても仕方ないかもしれないが、まあとにかく私はこの映画をそのように観た。物語の辻褄とか個別のセリフとかは無視して、役者の表情のみをじっくりと追っていくと幸せな映画である。
〔余談〕 この映画はコメディとしても面白い。もちろん杉村春子の役割は大きいけれど、私がいちばん可笑しかったのは原が嫁に行ったあと小料理屋で月丘夢路に抱きつかれた時の笠の表情だ。笠はこのあと何度も「きっと遊びに来ておくれよ」と念を押すのだけれど、あれ絶対下心あるよなあ。もしもまかり間違ってこの二人が結婚したりしたら……そんな「不潔」極まりない後日談を想像するのも楽しい。
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