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[コメント] 天国と地獄(1963/日)

貧しさを知る「天国」、豊かさを知らない「地獄」。
ミドリ公園

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







正直、後半は少しだれ気味だった。権藤にはとても親近感を覚えて、観るうちにどんどん好きになっていった。後半がつまらなかったのは、権藤がほとんど出てこないからだ。

権藤の魅力は、彼が古い工具をひっぱり出して床にべた座りし、カバンを修理する場面で決定的になる。魅力の核にあるのは、単なる貧しい出自の発露ではない。彼のプライドのありかがどこにあるのか、それを我々は言葉でなく映像で見せつけられる。

彼が奥さんに向かって「お前は貧乏を知らないから…」と言うのも、タフなプライドがなければ貧乏は即「地獄」となることを知っているからである。そもそも彼が株主総会の転覆劇を企んだのも、地位名誉ではなく職人としてのプライドを守るためだった。運転手の子供を救うための身代金も単なる金ではなく、職人としてのプライドと人間としてのプライドのどちらを守るべきかの二者択一だった。

ラストシーンはそれをよく示している。言葉少なに自分の近況を語る権藤の様子から、犯人は察する。結局一番大事なものを奪っていないことを。だが犯人はそれが何なのか分からない。だから泣き喚き、死刑なんか平気だとうそぶく。シャッターが下ろされた後、ガラスに反射する権藤の表情は何も語っていない。犯人の論理からすれば権藤は勝者であるが、権藤にとっての勝ち負けはそこにはない。突端から論点がずれているのである。

(評価:★4)

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