監督は実際に認知症の家族とともに暮らしているそうで、それを聞くとこのテーマを選んだことには容易に合点が行くのだが、しかしそれであればこそ、もっと丹念に主人公2人の関係を描いてほしかったのである。冒頭では極めて不安定な関係に見える2人が、茶畑の中での鬼ごっこだけで簡単に打ち解けてしまえるとはとても思えないし、まして33年前に死別した妻を追って死に場所を探すしげき（と自分は解釈した）を真千子が理解してやれるというのは、この描写だけでは無理がありすぎるのではないか。

それでも、稲穂の上を渡っていく風、森の木々といった一見何気ないショットが、殊の外効果的に使われていて、それが非常に心地よかったのも事実。おまけして、この点。