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[コメント] ロスト・イン・トランスレーション(2003/米=日)

このタイトル、実はダブルミーニングなのか?と思う。[シネマライズ2F/SRD]
Yasu

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「Lost in Translation」という原題は、直訳すれば「翻訳(translation)によって言葉の微妙なニュアンスが失われる(lost)こと」であるが、その解釈でこの映画を捉えようとすると理解できない部分が出てくる。

例えば予告編でも使われた、ボブがウイスキーCMの撮影に臨むシーン。ディレクターが日本語であれこれわめき散らすのに、意思がまったく通じていない。あれは単に通訳がへっぽこなだけであって(よく通検に受かったな)、あれがこの作品の肝であると勘違いしてしまってはいけない。

ここで主人公2人の環境を思い起こしてみたい。ボブが東京に来た理由のひとつは、カーペットの色ばかり気にする妻から逃れるためだった。一方シャーロットの方も、夫は仕事ばかりで自分のことを構ってくれない。夫の世界に入っていこうとしても、あまりに自分とは異質なものを感じる。

2人とも自分を取り巻く環境に疲れた、つまり相手の言うことを自分の言葉に直すこと(translation)、すなわち周囲の世界を理解すること(※注)の中で、自分を見失った(lost)ということもできる。

そんな風に、2人は逃げるように東京にやってきた。東京、つまり言葉の通じない異国の地ではそもそも理解する必要がない。ボブが、最初あれほど嫌がっていたTVのトーク番組への出演を了解したのも、「どうせ言葉が分からないんだから」という気楽さが分かってきたためだろう。

そんな中で出会った2人が傷をなめあうのも不自然なことではない。それでも結局は、お互いに自分の世界で生きていかなければならない。それほど短いともいえない東京滞在で、2人ともそれに気付いていたはずだ。そういうわけで、最後にボブがシャーロットに耳打ちした言葉は、やはり別れの言葉なのだろうと思う。

だからこの話は東京でないと成り立たない話ではなく、別にソウルでも北京でも構わない。東京の街はあくまで背景であり、カラオケだのパチンコ屋だの絵面的に分かりやすい東京のイメージは、あくまで「初めて東京に来たアメリカ人」(=主人公の2人)の目につきやすいから撮っているのであって、監督が興味を持っているからではないだろう。

ただ、我々日本人にとっては、これを背景ではなくどうしても前景と捉えてしまいがちであるし、一旦そう考えてしまったら「東京の街の撮られ方」ばかりが気になって、のめり込めないのだろうなあ、という感じがする。

蛇足ながら、南米でこの作品が公開された時のタイトルは「Perdido en Tokio」、イスラエルでは「Avudim be-Tokio」だそうだ。英語に直すと、どちらも「Lost in Tokyo」、すなわち「東京で迷子になる」というような意味になるらしく、原題とは随分かけ離れてしまっている。ネタ元のIMDbでは、これこそLost in Translationである、と揶揄していたが、つまり東京という街はどの国の人にとっても興味をひかれる場所なのだ、ということかも知れない。

さて、ここまでいろいろ書いておきながら★3なのは、映画としてはあまり華がないから。薄暗い室内のシーンが多いせいか、画面もいまいち綺麗じゃないし。…あっ、スカーレット・ヨハンソンの尻が、華といえば華だったかな、と。

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※ちなみに、同じく「翻訳」を意味する単語interpretには「理解する」という意味もある。

(評価:★3)

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