コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 見えない目撃者(2019/日)

「見えない目撃」というストレスをもっと強調できたほうが良かった。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分は犯行現場を目撃していて、かつ犯人とも接触をしているのに、それを活かせないというもどかしさこそこのサスペンスの基調なはず。割合に描けているともいえるし、物足りなさも感じる。主人公の証言は最初門前払いをくらうのだけど、もう一人の目撃者であるスケボー少年、あまりやる気のない刑事と定年間際の刑事コンビが徐々に彼女に協力を申し出ていくのだが、これが少しあっさりし過ぎで、これは個人的な好みなのだけど、もっとなかなか協力してくれないほうが良かった。主人公は母親にはもっとわがままな感じで、正義感から暴走する娘にもっと手を焼いてる感じくらいに思われてるほうが良かったかも。つまり総じて主人公に少し優しすぎる。「見えない」という主人公のストレスを観客は共有できないから、主人公がなかなか理解されないという境遇を通じて、観客にストレスを与えられれば、より主人公のもどかしさに共感できるように思った。協力者たちは家庭や職場からは相手にされていない側の人たちなので、相手にされない彼女に共感を感じてほうっておけないという感情になるという設定はうまいと思う。このへんの脇役人物の背景の描かれ方もしつこくない、ほどよいバランスで良かった。

サスペンスの目玉である「見えない恐怖」の描写はもう少したたみかけて欲しかった。犯人から逃走する時、駅の階段を駆け下りる際、踊り場のところで急に歩幅があわずつんのめるとか、視覚障碍者が助けを求めているのに周りの人は案外無関心だとか(少しそういう引きの絵があってこれは孤立感が出ていて凄く良かった)、盲導犬と離された主人公が障碍者用誘導ブロックを見つけその上を走りす描写があるが、走っていくとそこを跨ぐよう放置自転車などが置かれてそれに激突するとか、これでもかこれでもかとヒロインを虐めて欲しかった。こういうのはそれらの描写を通じて障碍者が味わっている不便さへの理解を深める一助となるだろうからここぞとばかりにやるべきだと思う。

「見えない」ゆえに他の感覚が鋭敏になるという描写も不足を感じるところが多い。特に嗅覚の描写はとりこぼしが多い気がする。眼鏡の汚れふきのアルコールの臭いだけでなく、拉致された女の子の化粧や(例えば)タバコの臭いで水商売の女性ではないかと推測するとか、監禁場所で感じる人の体臭、最後のアジトで既に刑事が殺されているところをスケボー少年が発見するまで主人公はぼーっと立っているが、鼻につく血の臭いで少年より先に異常を察知する、とか。主人公がアジトを停電させて「見えない」ハンデを犯人と対等にする最後の対決ももっと描き込んで欲しかったけど、すでに先例があるからわざと避けたのかも。

最後に蛇足。せっかく真犯人が(過去の事件の)「目撃者」であるという主人公との符丁があるのだから、その結論を、過去の事件を知っている引退した元警察官にあっさり台詞で明かしてしまったのがもったいない。そこまでわかっているけどその目撃者になかなかたどり着けない、という意味で「見えない目撃者」というダブルミーニングにするというのはどうかなと思ったけど、警察が目撃者の情報を持ってないわけがないのでこれはボツですね。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)死ぬまでシネマ[*] ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。