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[コメント] ハウス・ジャック・ビルト(2018/デンマーク=仏=独=スウェーデン)

今の世の中のどこが地獄じゃないというのか? という、わりとストレートなお説教。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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飢餓や疫病や天災や戦争、人が当然のように理不尽に大量に死んでいくような地獄のような日々を、今日の安寧を手に入れるまで人類は我慢してよく生き抜いてきたよ、と思っている人たちのコモンセンスを揶揄したかったんでしょうかね。「最低の町、最低の国、最低の世界では誰も助けちゃくれない」と夜の団地で叫ぶところとか、ちょっと前までは地獄への橋がかかってて簡単に渡れたのに、いまじゃサイコ野郎が自分の身を挺してでないと渡れなくなっているという比喩を、サイコパスの言い訳ではなく、作品の本当のテーマに据えてるあたりが、ああそっち行っちゃうのか、という古くて頑固な倫理観を感じてしまう。己の行為の自己正当化として、サイコパスや、誹謗中傷をツィートしまくってる人たちが「世の中は間違っている」という主題を持ち出しがちな行為の批判のほうがより現代的な課題のように思うけど、そっちではないんだなあ、と。

こういう問題意識の据え方は作家性の問題だから、別にこれはこれでいいと思うし、ちゃんときちんとテーマどおりに作っていると思うのだが、その反面、そんな能書きはいいから、この監督ちょっとイっちゃってるんじゃないか、という変態成分をもっと注ぎ込んで欲しかった。わたし的にはよりサスペンスフルな要素、より趣向を凝らした猟奇場面の創出が欲しかった。死体で組み上げられたジャックの建てた家なんかは、悪くはないけどそれこそ中世絵画や彫刻によくある裸体の男女が折り重なっている画像のまんまで格調高過ぎというか、理屈っぽいというか。

「あくまでテーマのためのグロ」なのか「グロをやりたいがための口実としてのテーマ」なのか、グロがエロでもいいのだけど、監督ってかなり前者よりな気がする。でも作り物として面白いのは案外後者のほうな気がする。もっとも面白い作り物かどうかは作り物としての出来不出来のウェイトのほうがはるかに大きいので、前者か後者か、が作品の魅力の決め手とはいえないのだけど、前者にも後者にも「欲望」はあるけど、後者には前者にはない「衝動」があって、この作品とても洗練され過ぎていてそれが弱かったのかなと思うのだった。

(評価:★4)

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