[コメント] 愚行録(2016/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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不穏な風景描写とは裏腹に、取材される被害者一家の過去の関係者たちが、いまひとつ怪しくない。彼らの一方的な証言で構成される事実の再現の歪み、「藪の中」的な面白さは出ていない。もっと彼らが自分に都合の悪いところを言い繕ったり、意図的に隠してしまったりしたところがあれば良いのだが、被害者夫の元同僚にしても、被害者妻の大学の友人にしても、自分の黒い部分をさらっと開示してしまうので、うさんくささがない。この中の誰が嘘をついているのか?的な興味は湧かない。
例えば既出の回想シーンにそれまで登場しなかった「真犯人」が途中から登場するのだが、既出の回想シーンの少し先にはこういう絵が続いていたのかという絵の見せ方は面白かったのに、一人の取材者が「(この間の取材の時は忘れていたが)そういえばこういう人がいたのを思い出した」といって唐突に割り込んできてしまう。その真犯人開陳までの間に、いろいろな人の証言に何か欠落を感じさせるものがあって、そこにきて真犯人が回想シーンに現れることによって、欠けてたピースがはまる感じ、すなわち「腑に落ちる」感じがあれば面白かったのになあ、と思う。
本作は、そもそも「藪の中」的な面白さを目指しているものではないにしても、最後に「腑に落とす」主人公の行動にいたるまでのミスリードがうまくいっているとはいえないので、真犯人が回想シーンに出てきた時点で、途中からもうだいだい最後のオチまでわかっちゃうのが惜しい。だってこの2人がいちばん怪しいムードが濃厚なんだもん。この2人の佇まいは憔悴を超えてはなから狂気を孕んでいる。もっとそこを徹底的に抑制したほうが良かったように思う。
煙草の吸殻の回収などの計画性から考えて、主人公の過去の取材を追及する一連の行動は、証言者潰しなのだろう。そしてそれが自分の過去の清算にも何もならない空しいただの「愚行」であるという点はとてもいいと思う。それだけに現実パートの演出プランには疑問が残る。
そういったことで、主人公が突然証言者に襲いかかるシーンもなんとなく読めた。やりそうな雰囲気だしてたもん。もうこうなってくると所謂「キャスティングネタバレ(この役者が出ている以上、こうこうこうなるだろう)」という切なさを感じてしまう。ところでこのシーンってこの映画で唯一のアクションシーンであり、見せ場なのだが、ワンカットで見せている都合上、主人公の背中で隠れて見えないにせよ、実際に倒れている役者の頭の上あたりに凶器をふりおろすかっこうとなってしまったからか、まったく本気で殴っているように見えないのが致命的だった。しかもガラス越しの向うで音が聞こえないというハンデがあり、鈍い音でごまかすということができなかったのも痛い。このシーンに「凶器を思いっきりふりおろす」描写ができていたら、評価は1点以上あがった。これはマジでそう思う。
上映後、後ろの席の女子2人が「ね、あれ気が付いた?」と会話しているので、思わず「なにか見落としがあったか?」と聞き耳をたてると、「稲大って早稲田で、文応って慶應だよね」「あっ、全然気づかなかったよ!」だった…
そこかよっ!
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