[コメント] 野火(2015/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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戦争の基本は兵站である、と日露戦争の頃は日本でもそういう常識はあったろうに、なぜこんなことになってしまう? 戦争はそもそも殺人の政治利用だとしても、利用の仕方ひとつでこんな戦争の仕方にもなってしまうという。当時この現場にいた、すなわちすでに極限状態にいた人々がこうなってしまうのは、どうしようもないことで、だからこそ極限状態なわけで、平和な僕らが学ぶべきは、こういう状況を人間は作り出すことができちゃうことだ。誰と戦っているのか?すらもう意味もなく、とっとと降参すればいいのに出来ず、「自分が助かるために果たして人間を殺して食ってもいいのだろうか?」なんて答えのでないような自問自答にまで、人間は人間を追いつめることができる。そういう状況を作り出せる。この映画のなかで出てくる、あちこちに転がる死体や、生きながら腐っている人々の間を、もはやズレた意味での「自分との戦い」でしかなく彷徨っているおっさんの姿を思い出し、これの発端は政治でしかない、という恐ろしさを学習するのによい作品だと思う。話がそれるが「日本の女子が韓国のアイドルグループの一員として稼ぐのはけしからん!」と、業界の人間でもなく、自分に何の利害もないのに、そう叫ぶ人たちがいるのはなぜだ? 愛国心? その愛国心と、そもそももともと持っている愛郷心とは同じものなのか? 政治利用っていうものは人を狂わすこともできる。
「肉体と精神の破壊」は文芸にもなれば、パンクにもなるというのは、谷崎潤一郎をエロ目的でも読めるということに通じるのと同じだなあ、とも思った。
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