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[コメント] インターステラー(2014/米)

宇宙旅行というよりも時間旅行ドラマ。監督は人間が人間らしさを保つための身体感覚に関心が高い人なのだろう。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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水の惑星で大波から脱出するのに作中時間でわずか数時間、それが母船で23年経過してしまい、待機していたクルーが老けていて、しかもあまりにも待ちわびていたからもう帰ってこないと思い、死ぬつもりでコールドスリープしなかった、などという描写。使いふるされたネタだからこそ余計な説明をせず、ポンと見せられるのだ。惑星でちょっとモタモタしただけで、「何してる、急げ!」とか「どんだけ無駄に費やしたと思ってるんだっ!」とキレるクーパーを見ているうちはそこまで大袈裟な…と思うわけだが、23年後って言われて取り返しのつかないロスをしたことに落胆する。娘は23年歳をとってしまった…と。

知識でしかなかったものを体験で味わわせ、それってそういうことなのね、っていうふうに理解させてくれることがフィクションの醍醐味。ブラックホールに物質を投棄し、質量の等価交換で生じるエネルギーを使うワンミッションに「こんどは50年だ!」なんていうシーンで、もはや合計73年、一人の人間の寿命の限界、はっきりとこの場面で娘との決別を確信する主人公の気持ちに共感できる仕掛けになっている(だからこそ、23年とか50年とかいう人間が実感しやすい100年以内の数字を作り手は設定するのである)。そして全てを捨ててしまって始めて希望を手にするのである。もう宗教マインド的に激しく納得なのである。さすがハリウッドなのだ。

最近思うのだが、ネットへの瞬間アクセスが常態化したことで、今の人間の感覚のなかで最も変容しつつあるのが、時間の「経過」という感覚と思う。それは、「記憶」や「成長」という人間が人間らしくあるための本質にめちゃくちゃ関わっている。『イノセンス』で老いない体になった主人公が、時間の感覚を鈍らせないように犬を飼うという設定に通じている。それはとりもなおさず人間らしさを喪失しないための行為だったはずだ。この作品は、現代の人間が人間らしさを喪失しつつあるという警鐘として、時間の経過ということについて体験させることこそがテーマなのだと思う。

なぜなら作品時間の人類はようやく重力(3次元)を克服し、好きな場所へコロニーを軌道周回させ、ワープ航法を獲得し(ラストでアメリアを救出に向かうからそうだろうと思う)はできたものの、好きな時間と空間に自在にアクセスできる5次元空間はまだ作れないというクーパーの台詞があるとおり、人間は成長から自由になれないという設定を作っている。それはもちろん、自分よりも年老いた娘との再会という場面の創出のためであり、それってそういうことなんだなあ、誰もが我がことにおきかえて味わえる詠嘆の体験こそを狙っているからなのだと思うのだ。

(評価:★4)

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