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[コメント] ミッション:8ミニッツ(2011/米)

SF世界の当事者にしか起こりえない心情を、現実世界のわれわれに説いてみせ、そのことで現実のわれわれに何かを気づかせてくれるとしたら、それこそまさに本当のSFの醍醐味だ。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私の好きなSF小説のひとつに「ゲイトウェイ」という作品があって、これは現実世界では起こらないあるSF的(科学的?)な状況下だからこそ起こりうる事象が、その作品世界の主人公の心のドラマの核になっている。ネタバレしないように説明するのが難しいのだけど、現実では「比喩」でしかない事柄が、そこでは実際に起こってしまい、そのことで主人公が苦しむのだ。ああよく物のたとえでいう「○○」っていうのは、実際に起こるとなるとこんなにきつい感情を味わうことになるのか、といったような感慨を受けるのだ。

私がこの作品で最も惹かれたのは、主人公の「8分間の残留思念」に対し、人間としての尊厳を見出すことができたグッドウィンの心情の描き方にある。プログラムによって擬似的に人間らしい振る舞いに置き換えられた8分間の磁気記録が、誠実で真摯な人格をもった人物として現れたとしたら、科学者はそこに人間に対する希望を強く感じずにはいれないのではないだろうか?と。仮に「彼」が、わかりやすく誇張されたイメージだったとしても、死後の脳の記録が、突然巻き込まれたなんだかよくわからない状況に反駁しつつも社会正義のために誠実に使命に従おうとし、後悔を続ける父へ何とか心配しなくていいと伝えようとし、目の前の彼女のこれもまた素敵な人物であることを見抜き恋をし始める人間として生き生きとして躍動しだしたら、それはきっと人間の魂を永遠に遺すことができることに匹敵する。たまたまスティーブンスが立派な人物だったということもあるのだが、グッドウィンだけが、そのことを目のあたりにし感無量の境地にいたったであろうということを想像して感激したのだった。

科学者がデータの断片に対して、子供の成長を見守る母のように、あるいは淡い恋のような感情をいだき、そして最後は一対一の個人と個人として、尊厳をかけて取引を行う関係にまで昇華する。そこにSFのロマンを感じる。

そこか?っていわれるかもだけど、そこなんです。

なんでそこに共感できるのかっていうと、それは自らの手で何かを蘇らせたり、永遠にとどめたりできたら、それってすごく素敵だろうな、というふうに思えるからなのと、やはり人間が死んでしまってもその人の人間性のようなものだけは残せてゆけるのだとしたら、単純に生きる希望がわいてくるからなのだと思う。

(評価:★4)

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