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[コメント] インスタント沼(2009/日)

黄金の日々を取り戻せ!
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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てっきり奇をてらった言葉の組み合わせのシュールさだけを借りたタイトルなのかと思いきや、まさか本当に「インスタント沼」の話だとは! 「これ何だかわかる? インスタント沼よ!」って場面になった時は、なんかちょっと感動したもの。奇抜をただの発想だけで終わらせず、正面から「インスタント沼」に向かい合って、これだけの物語に膨らませてくれたのが嬉しかった。くだらなくて。

と、同時に、脱力ネタを単なる肩透かしで済ませず、ここまで作品の核に据えて、物語を、主題を語ろうとするところには、監督のちょっと強い意志を感じる。ラストも思いっきり小劇場の演劇みたいな台詞を叫ばせていたし。そうせずにはおれないような、何か切迫した心情ででもあったんだろうか。

亀は意外と速く泳ぐ』も『図鑑に載ってない虫』も、大人が子供心を取り戻していく物語だ。もちろん本作も同じテーマが貫かれている。「スパイごっこ」「昆虫採集」ときて、ついには大人は「泥(水)遊び」をしろ、と。今までなら「泥遊びは楽しいよ」って感じだが、本作はそれが「泥遊びをしろ」、ってくらいの強さだ。「泥」と「水」の浄化で昇り竜・・・ってどんだけ王道かって。

世界の行き詰まりに個人のモティベーションの低下という負のスパイラル。世界がジリ貧になっていく状況に穴を穿ちたい。監督は密かに闘志を燃やしているんじゃないだろうか? ギャグで。監督がもっともこの世の中で信用しているのが、子供の時の無心に何かを追っかけていくような、そう、蛇口をひねって長い長い長いホースの中を流れる水流を追っかけていくような「力」なのだろう。俺たちの黄金の日々を取り戻そうぜ!って。くだらない(「くだらない」ってのはいつだって大人の価値観だ)ことに夢中になる。それがあれば大抵のことは何とかなるんだ、って。

亀・・・』のヒロインは「スパイ」、『・・・虫』の主人公は「採集者」という「役柄」を割りふられて、大人から子供への転身を果たすという手続き(ロールプレイングゲーム)を踏んでいたけど、ハナメはもっと最初から大人と子供の中間で、それはきっと監督自身の姿(あるいは身上)に近いのだろう。自分自身の姿を手続きなしでダイレクトに体現してくれたのが麻生久美子という女優つうか人間なのだろう。彼女だからこそ監督は描きたかった「子供の俺」を満足いくまで描けたのではないだろうか。

ハナメは父と母から子供目線を教わっていくんだけど、これって子供の思い描く理想の大人だよなあ。しっかりおんぶもされていたっけ。そのおんぶされていた畦道、京浜工業地帯の工場のともし火、山に沈みきってしまうまでの夕空、ミンミンゼミとヒグラシの鳴く時間帯の使い分け。脱力ガジェット以上の胸キュンポイントも高い。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)クワドラAS[*] TOMIMORI 水那岐[*]

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