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[コメント] 秋刀魚の味(1962/日)

「やるべきこと」と「やりたいこと」の間。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







元欅坂46の長濱ねるが番組の企画で、オネエのママに相談ごとをするというのがあり、その時耳に残った言葉が「やったほうがいいこと」と「やりたいこと」はどっちを選んだ方がいいか、という彼女の相談事の言葉の使い方だった。「やるべきこと」ではなく「やったほうがいいこと」なんだ、と少し引っかかった。

この作品で父と娘が揺れていたのは、「嫁に行く」ことが「やるべきこと」ではなく「やったほうがいいこと」だったからだろう。「やるべきこと」の対向が「やりたいこと」なら、自立する女の物語なのだが、この父と娘のスタンスは「やりたいこと」ではなく「やったほうがいいこと」なのだ。そのスタンスでの「結婚」というのがテーマなのだろう。それが秋刀魚の味ということなのだろう、きっと。(当然時節柄、娘は結局は恋愛をかなえることなく、父や世間の「やったほうがいい」に従って、だまって嫁いでいき、父は勝手にさみしがるのだから、徹頭徹尾女は男にとって都合のいい存在でしかないのだけど。)で、「やったほうがいい」に縛られている父と娘の先を行く「やりたいこと」を求める人たちが、佐田啓二、岡田茉莉子夫妻という塩梅だ。「やるべきこと」と「やりたいこと」の間に行動規範を置く人たちがゆえの悩める姿のスケッチなのだ。

小津映画は、いろいろと昔の日本の再発見があって面白く、つい余談じみたことを書きたくなるので、それを少々。

1:佐田啓二、岡田茉莉子の夫婦喧嘩や、「見合いの話なんてとっくに他と話が進んでいるよ」とかいうたちの悪い冗談なんか、今だったらガチ切れしそうなのに、なんとなく穏やかに済んじゃうのは、小津映画(笠智衆)だからなのか、今の時代が少々のことで怒りすぎなのか、どっちなんだろう。

2:小津映画は数えるほどしか見てないけど、駅が出てくるシーンが印象深い。今回は池上線の石川台駅。岩下志麻がほのかに好いている兄の同僚(吉田輝雄)と会話を交わすシーンだが、なぜか好きな場面だ。傾斜した土手の上に櫓を組んでその上にホームが張り出している構造はいまだに健在らしい。

3:欅坂つながりでいうと、メンバーの菅井友香の家は、お正月は家族で自分のおすすめ映画をもちよってファミリー鑑賞するのが恒例行事らしいのだが、彼女のお父さんがこの作品をセレクトしたらしい。菅井さんのお父さん、娘が24歳になったらこれを出そうってずっと狙ってたんだろうな。娘にどう響くのか知りたいのかも。その気持ちよくわかる。

本作は、古い題材ながら、「娘を嫁にやる父親」のさみしさという意味では、マスターピース的な作品として今後も、そして海外でも通用していく作品なのかも知れない。

(評価:★4)

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