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[コメント] 天国と地獄(1963/日)

空想と現実のなかの「天国と地獄(High and low)」
ちわわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







何度も書いているが黒澤は苦手である。それに高い評価を得ている 映画には、点数を低めにつけたくなる。だが、それでも5点を与えざるを得ない。

サスペンスとしての完成度の高さはいうまでもないし、黒澤らしい 技が至るところで活きている。三船、仲代、山崎の三人がそれぞれ 中心にたって存在感を示し、端役も味がある。

いくけんさんが仮説として書いておられることは、もっともだと思う。 権藤(三船)が、革製品製造業に携わっていた階層出身だとすると、重役との 確執の理由の一部がそこにあったのではないかという想像も成り立つ。 また妻(香川京子)に対して、貧乏暮らしのしんどさを述べる権藤の言葉 にも、それを伺わせるものがある。 それに権藤の家が高台のうえにあり、犯人(山崎)とその周辺の人々、例えば あの焼却場のおやじの生活などは、最下層の生活だとすると、犯人の権藤 への偏執的な羨望の感情も理解できるものである。

そうすると高台のうえの権藤の家も、煙突から立ちのぼるピンク色の煙も、 実に象徴的な意味が感じられる。煙はたんに犯人の目印に終わっていないのだ。

警察が犯人を泳がせたことについて、いろいろ反論があるのも判るが、泳がせる 理由は割としっかりしている。犯人とそれを追う警察の眼を通して、横浜の さまざまな光景が見えるわけで、明らかにそれを狙っているのである。当時の黄金町 (関西人の僕には馴染みのない町なんだが)周辺の光景など、まさに地獄をみる 思いである。それは麻薬を受け取る華やかなバーのシーンと対比されている。

天国がこの映画のどこにあるのかは、考察を要する。実際の天国は、登場人物たちの 想像の世界にしかない。権藤の野心、重役たちの野心、犯人が眺める高台。 しかしながら、どの人間も天国に至ることはない。他方で、高地(high)から低地(low) へと場面は急転換を繰り返す。映像作家黒澤の面目躍如といったところ。 この強烈な対置が至るところで映画の骨格を作り上げている。

黒澤のこの二元論的構造は苦手だが、1950年代後半から60年代初頭の日本社会の明と暗を 独自の構築感のうちで、圧倒的な物質的・思念的動きとして創り出した点、やはり 傑作なんだろうな。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)けにろん[*] カフカのすあま ganimede[*] 荒馬大介[*] m[*] ぽんしゅう[*] chokobo[*] 町田[*] いくけん[*]

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