コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)

カットごとのフェード・アウト。まるで眼前の現実から逃避するために瞼を閉じるかのよう。直視できない現実がそこにあるのなら、目を閉じ眠りに落ちるしか術がないかのように。
muffler&silencer[消音装置]

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







主人公の生き方・行動に共感できない、というのはよくわかる。多くの人々の好意・援護を当たり前のように(そう見えた)享受し、生き延びていく。彼がしたことと言えば、ピアノを弾き、安全な場所を求めて徘徊し、眠り、ひたすら「その時」を待っていただけだ。およそ、映画的主人公に求められるヒーロー・ヒロイン像からはかけ離れた存在である。

だが、戦火に生きる人々とは、凡そそのような存在なのではないだろうか。そこが、この映画のリアリティーなのだと、わたしは思う。そして、それが映画的リアリティーに欠けたリアリティーなのだと感じた。

現実に耐えられず、瞼を閉じ、眠りの時を待つ。瞼の裏に写る、残酷で凄惨な現実の光と影、そしてそれでもまだ生きている証、瞼に流れる血のくすんだ赤。静かに、とても静かに、この映画はそんな「目」であの時代を切り出した、そう思う。

しかし、だからこそ、そういう映画だと感じたからこそ、わたしにとっては、あのピアノの演奏はあまりに多弁で、空虚に響いて、余計なものとしか感じられなかった。映画的リアリティーである、あの「見せ場」を作ったことが、逆にこの映画を平凡な作品にしたのではないか、そう思う。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)わっこ[*] ボイス母[*] hk[*] アルシュ[*] ざいあす[*] JKF[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。