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[コメント] スパイダーマン(2002/米)

トビー・マグワイヤがだんだんブレンダン・フレイザーに見えてくるから不思議だ。《地球ニヤサシイ》エコロジカルな地域密着型の正義、あるいはヒーロー→
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原作に対して思い入れがないどころか、読んだこともないのだが、“脱”勧善懲悪的というか、極めて優柔不断というか、このあいまいな物語世界がアメリカ製であることに少々驚きを覚えた。もしかして、サム・ライミ製だからだろうか。

ものごとやできごとを、絶対的な善/悪、正/誤、強/弱の二項対立の世界に持ち込むことの欺瞞や愚かしさをきちんと自覚した上での、正義。ここをきちんと悩めたアメリカン・ヒーローが、これまで映画世界にいただろうか?しかも、兵器・重火器を使用、借用しないヒーローがいただろうか?(『スーパーマン』はそうだが、彼の“正義”と、その出所[でどころ]はまた違う。)

それはやはり、日常では忌み嫌われる「蜘蛛=spider」がイコンとなっているからこそなのだろう。《マイノリティー》から出発し、その《マイノリティー》の記憶を保持した、ヒーロー。真の《強さ》とは、自分の《弱さ》を徹底的に自覚し、それを否定するのではなく、肯定するところから、生まれ得る…

さて、ここで、中崎タツヤの漫画『じみへん』のとあるエピソードを勝手に思い出させていただく。あの見開き二頁の読み切り漫画だ。

地球の平和を守るためやってきた「スターマン」。銀行強盗を一掃するのだが、強盗にも強盗する訳があったのではなかろうかと、心が晴れない。そこである寺の和尚に相談に行く。和尚は、善悪の判断は人それぞれ、立場によって善悪は交代すると言い、正義をなすためには、「人として己の全人格をかけた独善を衝動に任せて」が必要と諭す。

そして喫茶店で和尚の言葉を反芻するスターマン。背後の女子高生の会話が聞こえてくる。

「別にセックス好きじゃないけど、一回やって五万だからね。コンビニなんかでちんたらやってらんないよ。」

「結局世の中金でしょ。中には説教たれるバカもいるよ。てめーだって金持ってたから女子高生抱けたのにさあ。」

「将来苦労するぞ、だって。バカはてめーだっつうの。玉の輿にのっててめーより贅沢してやるって。やっぱ金だよ。」

そして、ムカムカきたスターマン。「人間のクズめ!死ね!」ってなわけでこのトンデモ女子高生を殺しちゃう。「殺して悔いなし…あっ、これかあ!」

…いや、“違う”かもしんないが、あながち間違ってはいないな。人間の正義などというものは、所詮この程度のものだということにおいて。それを自覚した上で、それを乗り越えていこうとするヒーローを、デジタルながらも極めてアナログな手法で、うまく融合させて、描ききったというところが、賞賛に値すると僕は思う。

(*こういう作品が「読み直される」アメリカはやっぱり「層が厚い」と思うが、いまいちこの映画のウケがよくないのは、こういうご時世だからだろうか。)

僕がこの映画で好きなのは、ウィレム・デフォー扮するグリーン・ゴブリンが、スパイダーマンを「何バカなこと言ってるんだ」ってな感じでパツンとハタくところだ。間が抜けて面白いのは言わずもがなだが、何か“愛”を感じる。映画としてのヒーローとヒールが、世俗的なレベル、飲み屋でも交わしそうな間で交流する、その余裕と猶予が好きだ。

確かに「読み飛ばし」な映画であることには異論はない。それにしても、ユーモアを交えつつ、老若男女楽しめるエンターテイメントとしながらも、根底にはきちんと《正義》や《善悪》の絶対的価値判断の欺瞞・胡散臭さ、社会的肉体的弱者を自覚した上での真なる強さを目指そうとする姿勢が貫かれている点で、さらに、そういった説教臭いものを前面に押し出すことなく、物語の中で消化されている点で、僕はこの『スパイダーマン』が好きだ。

最近の映画では、子どもに見せたい映画No.1かもしれない。

〔★3.75〕

[with guko/ワーナー・マイカル・シネマズ茨木/5.15.02]■[review:5.22.02up]

(評価:★4)

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