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[コメント] アメリカン・ビューティー(1999/米)

半径5メートルを描きながら、ここまで感動を覚えた映画は、生まれて初めてだ。   
G31

映画の中でしか存在し得ない「アメリカの典型的な家族」。生活は中流の上で経済的には安定、郊外の広い家に住む。にもかかわらず、これでもかってくらい様々な問題を抱えている。もちろん映画だからそうしている訳で、現実にはあり得ません。だから、こんな家族おかしいと批判するのは間違いです。

誰にも、幸せへの道のりは細く険しく、山の中の一本道のようなもので、気づかないうちに森の奥に迷い込んだり沼の深みにはまったりしてしまいます。覇気を失い、娘と断絶し、セックスレス夫婦になり、ドラッグにはまるのも、意図してそうした訳ではありません。この映画の登場人物は、みなそれぞれに幸せを追い求めながら、いつのまにか不幸のぬかるみへ陥ってしまっています(ゲイのカップルは別みたいです)。自分勝手を追求した結果摩擦が生じる、なんて話ではありませんよ。

そんな中で、主人公レスター(ケビン・スペイシー)が自分のはまっている不幸に気づきます。はたから見て彼が一番不幸に見えるので、それはちょっと嬉しいように感じます。そして彼にそれを気づかせたのは、「ビューティー」つまり「美」です。「美」にはそれだけの力があるのです。その「美」を演じるのは、アンジェラ(ミーナ・スバーリ)の若々しい肢体と媚びを含んだ微笑み、そして毒々しいまでに赤い薔薇の花弁ですが、それはもう見ていて手品というか奇跡みたいな映像です。

今度こそ「美」を手に入れよう、不幸から脱け出そうと力強く歩き始めるレスターですが、その道もまた、実は幸せへ続く道ではなく、邪道でした。これまた人生ではよくあることです。

この映画は、そういった、山の尾根のような、右へ落ちても左へ落ちても不幸が待ち受けている、幸せへと続く細い道を、かろうじてバランスを保ちながら、手探りで前へ進んでいく、そんな映画です。そしてレスターが最後にたどり着いたのは・・・、そこは観る者の判断に委ねられています。私は、幸せというのは山のあなたの空遠くにあるのではなく、自分の足元にあるものだ、と解釈しましたが、別の解釈をする人もいるかもしれません。

美しい映像、印象的な音楽、歯切れのいい会話、ミーナ・スバーリの媚態、ソーラ・バーチのティーンエイジャーらしい情緒不安定ぶり、ウェズ・ベントレーの透き通った視線、クリス・クーパーの抑制された苦悩、その他もろもろの細部が、この映画を素晴らしいものにしていることは言うまでもありません。

アカデミー賞は保守的と言われがちですが、斬新でありながら伝統的な価値観を保持し、問題をつめ込みながらも方向感覚を失わないこの“高潔な”映画が、アカデミー会員の賞賛を浴びないわけがありません。彼らこそ、この映画が体現している「美」にもっとも敏感な人々であり、その「美」は、(映画の中の言葉を借りれば)「神を見返す」力を与えてくれるのですから。

この映画が、あなたの実人生にも影響を及ぼす「美」であればいいなと思います。それが「アメリカ的・美」なのは日本人としてはちょっと悔しいけど。

90点/100点

*************ネタバレ****************

・これは『アメリカン・ヒストリーX』を観たときにも感じたことだけど、アメリカ社会が一番始めに取り組むべき問題は、やっぱ“銃規制”じゃない? とどうしても思ってしまうんだけど。。。

・ビニール袋が空に舞うシーンは決して「美しい」とは思えない。

・レスターの最後のセリフ、印象的ではあるけど、よく考えりゃ詭弁でしかない。誰しも「いつか」死ぬことは間違いないけど、そのときに自分の人生に感謝できるかどうかまではわからないじゃん。

(評価:★5)

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