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[コメント] 踊る大捜査線 THE MOVIE(1998/日)

警察機構から所轄と本部というドラマな構図を見出してきた事にも感服するが、「現場」と「踊る会議室」という普遍的な対立式へ導く手腕が見事。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 意図的にそうしたのかどうか分からない(偶然に思える)が、捜査中の刑事とは思えない緊張感の欠落ぶりを示す「青島くん(織田裕二)」や、緊張感のかけらもない犯人グループに、日本という平和に腐乱した社会の「弛緩した日常」が現れているようで興味深い。自分たちがゲーム感覚で引き起こした犯罪にさえ、さほど興奮を覚えているようには見えない彼らは、社会のインポテンツである。

 一般には、映画作家といわれるような人たちは、小泉今日子が演じたサイコパスや、奴らの犯す犯罪の方に興味を示すのではなかろうか。なまじっか映画を観なれている為か、そっちに目がいってしまって、少なくとも私にとってはストーリーの迷彩として役立ったと言える。ついでに言うと、歯の矯正をしている三十女の図は、ただ気味悪かったが、絵としてサイコパスの本質を突いているような気がしないでもないでもないない(?)。

 話は逸れるが、引用とも借用ともつかぬ『天国と地獄』や『羊たちの沈黙』への言及は、あまりに陳腐で、私の中ではストーリー上のシミとして無視していた。皆さんの文を読むうちにそんなシーンがあったと思い出したが、テレビ出身者が初めて触れる映画ファンに向けて送った秋波だと考えれば、可愛いもんじゃないか。駄目かしら?

 連続ドラマという半ばルーティン・ワークの世界を出自とするためか、あるいはTVというメディアがより時代と感性を一にするからか分からないが、時代の合意事項をうまく取りこんでいたと思う。同時代の(と言っても5年前だが)日本映画でこんな風に感じるのは、ずいぶん久し振りの事だ。さらに一歩先に進む価値観として、官僚機構の中で自己実現を目指す室井(柳葉敏郎)の存在が光っていた。われわれは、人間関係を通じて世界を知り、人間関係を通じて成長する。その限りにおいて組織は有意義である。人間関係を損なうが故に、犯罪は犯罪なのである。勝手ながらこんなメッセージをこの映画から受け取った。

85/100(03/10/18記)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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