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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎かもめ歌(1980/日)

テキ屋仲間は皆、時代に準じた普通の服装。寅の格好だけ異様に浮いている。40年も前の映画を観てるので時代感覚が寛容になりがちだし、寅だけ見てると気にとまりにくいが、寅は(映画「寅さん」は、かも)そもそも時代から浮いているのだと。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 マドンナの伊藤蘭さんは高校の先輩。僕のではなく、僕の妹のだけど。次作の松坂慶子さんもそう。ほかにお笑いのオードリーとか(後輩)。身内っちゃ身内なので(どこがじゃ)言いにくいが、マドンナとしては、蘭ちゃんは存在感が薄かったと思う。薄幸そうな雰囲気は醸していたため、致し方ないところかもしれないが。寅がすみれに対して抱いたのも、恋心というよりは親心なので、寅との絡みが薄くなったのはやむを得まい。ここですみれ名をつけてくるかという気は、少しした。

 最後も、恋に破れたの「フラれた」とは違う。だが寅からすれば、父親代りを務めたいという気持ちを袖にされたのだから、まあ、フラれたのか。すみれに、寅を拒絶したという意思まではないだろうから、相手方にその気はないと寅が気づくパターンAと相手方にも気はあるのだが寅が身を引くパターンBの中間か。

 引越祝儀「2万円」の件は、寅に悪いところは何もないと思う。源公から巻き上げた金であることを除けば、だが。とらやの面々は基本的に寅に対して大変失礼なのだが、まれに度を超して失礼なときがある。寅が可哀そうというか、作劇者の演出の厳格さに唸らされる。

 すみれが、寅の泊まるホテル奥尻を、香典のお礼に訪ねるシーン。杯を空けた寅に酒を注ぐ。寅が「親父さんも酒飲みだったから、いつもこんな感じだったのかい」なんて。こういうさりげないシーンが、『男はつらいよ』のしんみりするところである。

 蘭ちゃんは、キャンディーズをやめて、普通の女の子に戻って、また芸能界に復帰した直後という感じか。この年代の若者の、「個」の定まらなさを体現した起用ではあったかもしれない。蘭ちゃんのかもめ歌(って江差追分だが)、ちゃんと聞かせて欲しかった。

19/4/13記

 鴎の鳴く音にふと目を覚まし あれが蝦夷地の山かいな

本唄の出だし、「かも〜め〜」に続くフレーズを、蘭ちゃんは「なぐーねー」となまって発音してたように聞こえたけど、違ったかな。

 比較的、すっきりとした話で見やすい物語になっている。一つは、寅とすみれの関係があまり嫌らしくない(ホレたハレたの関係にない)。もう一つは、とらやの面々もそう(寅がすみれにホレていると)見なしていない。いつも最も下司な見方をするタコ社長でさえ、すみれを「(あの娘には)ご婦人方にはわからない色っぽさがある」と評すだけ。“男友だち„から電話があっても、いつものようにまた寅がフラれると心配しないのである。全作見た後であらためて観ると、やはり珍しい回な気がする。

 寅も、はじめのうちはすみれが心配で来ていただけだろう。だかそのうち、差別や締め付けのないここ(夜間の定時制高校)でなら、自分ももう一度学び直しが出きるのではと、本能的に悟ったのではないか。願書の提出というさりげない(本シリーズでその後回収されることのない)エピソードが、たまに吹き出す寅の学問志向を表して、そこはかとなく良かったと思う。

20/9/28記

(評価:★4)

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