しんみりしたシーン２つ。乳幼児を連れた旅の父親に、情けをかける寅。自分も母親の顔を知らずに育ったので、この子を他人事と思えないと、父親に酒までおごったのだが、翌朝、逃げた父親に子を押し付けられる。博が工場で手に怪我を負う。大事には至らず済んだと分かったあと、人払いをしたタコ社長が、１人、「よかった」と安堵のため息をつく。

　新しさを感じたシーン。おいちゃんが変わったのはともかく、寅が若者の恋愛指南役を務めている！ なかなか的確なアドバイス。さすがは恋愛体験のベテラン（？）だ。この指南を素直に受けとめる、恋愛経験の乏しい青年（上條恒彦）が、寅の指南を真に受け、ストレートに好きだと告白してしまう。告白できてしまう。ここも新鮮な感があった。

　残念なシーン。京子嬢（十朱）が告白を受け入れてしまうのは、ちょっと納得性に乏しかった。さらに言うなら、寅と京子嬢の絡みが弱く、寅の“惚れちまった”感の醸成が薄い。これらの結果、寅が振られたことへの「可哀想だなあ」感がほとんどない。この結果、「寅さん」を観てきた観客にとり、寅がまた柴又を発つことへの「つらいところよ」感がほとんど想起されない。気がした。

75／100(19/01/19見)