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[コメント] グリーンブック(2018/米)

仮初めの友情だとしても貴重なものかもしれない。“憎しみ”が大手を振って横行するこの世界には。
G31

 人種差別の問題も取り上げられるが、描かれている中心は、立場の違う二人の間に形成される友情の物語だった。

 仮に誰かが“ミスター・出まかせ屋”みたいに呼ばれていたら(映画内の表現とはやや違うか)、僕自身もそれは否定的なニュアンスで受け止める。ところが言われた当人はそれを誇りに思う。弁術の達者な人間、他人を言いくるめて自分の思うとおりにコントロールできる奴という意味になっているのだ。そして、当人の中では、“自分は嘘はつかない”という思いが誇りの源である。ありもしないことを手前勝手に並べ立てるのは、嘘ではないということにでもなっているのに違いない。

 そういう人物がいたとすれば(いるのだ)、自身の幼稚さ・未熟さは内に隠しつつ、対外的に大人として振る舞える範囲は案外広い人間かもしれない。黒人の使ったグラスをゴミ箱に放るというのは、生理的な嫌悪感以外の何ものでもないが、トニー(ヴィゴ)がこれを少しでも表にあらわしていたら、彼とシャーリー(アリ)の間に友情の成立したはずがない。

 そんなものは仮初めの友情に過ぎないかもしれない。だがそうであったとしても、この世になかなか出現することのない、稀なる友情の話ではあるだろう。そんなふうに思う僕が、出まかせ屋の口車に乗せられてしまったのでなければ。

 でも、そういうものすらなかったとしたら、世の中は、今よりもっと“憎しみ”がまかり通る世の中だったと思う。

85/100(19/04/03記)

(評価:★4)

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