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[コメント] おくりびと(2008/日)

ひと言でいうと着眼点のみの映画だが、裏方で、いわれのない偏見にさらされうるお仕事に、一定以上の敬意が払われていて良。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 広末涼子が主演だった方が良い作品になったのでは?というコメントにしようかと思った。巷間の「本木君の立ち居振舞いが自信に満ちて無駄がなくて凛々しい〜!!」みたいな評価に対し、そもそもコチトラそんな観点で見てねえんだよ!と思ったし。

 広末からは「触らないで!汚らわしい!」。杉本哲太からは妻子に「挨拶しなくていい」とことわられたあと「もっとまともな仕事に就け」。だが納棺業に携わる人々が日常的に直面するのは、このように直接ぶつけられる批難の言葉ではなく、(女友達をバイク事故で死なせた高校生に向って言われた)「一生あの人みたいな仕事をして償うことがお前らにできるか?!」といった、間接的に発露される差別観、だと思う。

 この台詞(あの人みたいな仕事)は、映画という2時間程度の枠組みで処理するには重い(と思う)。この台詞を受け納棺業を辞めようとした本木雅弘は、社長(山崎努)と禅問答みたいな遣り取りをしただけで思いとどまる。こんな処理では物足りない。百歩譲って、彼はこれまで見習いとして納棺業を手伝ってきたから乗り越えられたのだとする。だが夫の納棺作業をたった一度見ただけで転向してしまう広末という展開に納得は無理(自分が批判した友人に実母を納棺され転向した杉本哲太にも)。夫の行動に従順な妻という今の世でも根強く求められる理想妻像を広末が素直に演じてただけに、なおさらだ。広末が主人公(つまり納棺屋)だったら、そんな安易な構図(=夫に従う妻)に依拠することもできなかったのでは、と思った次第である。

 余貴美子が「(山崎努の仕事振りを見て)『この人に納棺されたい』と思った」と言っていたが、そんな出会いは、万に一つの出会いではないか。葬儀という一連の流れのクライマックスはやはり読経のあとの献花や出棺ではないか。事務的に執り行われる流れの中で、茫然自失した遺族にとって、納棺師の適確な作業がある種の安心感や平常心をもたらすことはあっても、その感謝が口にされることも、いや意識の表面に上ることすら稀ではないか。納棺師が作業する前で修羅場が繰り広げられることなんて、どれだけの割合であるのだろう? もし、納棺業の苦悩が、社会から認知されない、無視されるということにあるならば、納棺業の本当の辛さ・苦しさを描くという件に関し、この映画はゼロ点である。

 でもわれわれは思い出すのだ。あの日、われわれの納棺師たちが、彼らにとって見ず知らずの他人の死んだ肉体を、優しく、尊厳をもって、いたわる様に扱ってくれていたことを。

75/100(09/02/11見)

(評価:★3)

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