[コメント] さらば、ベルリン(2006/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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主人公が最後に自分の「罪」を告白し、それで主要な謎のすべてが解けるという構成。だがその内容にいまいちインパクトを受けないのは、謎で物語を引っ張ってきたこの作品にとって、致命傷だと感じる。
原題は「良きドイツ人」。心理学者で、自ら収容所体験を持ち、そこから生きのがれたV.E.フランクルは著書『夜と霧』でこう書いた。「私たちのうち、最も善良な者は戻って来なかった。」 つまり、ナチの用意した過酷な環境の中で、誰もが自分の生存の為に行動せざるを得なかった、そんな中でも崇高な精神を示した人間たちはいた、だがそういう人たちは、最後まで生き延びなかった。自身は生き延びたフランクルが、自戒を込めて述懐しているわけである。
***勘違いする人もいるかもしれないから書くが、どんな悪いことをしてでも生き延びるべきだと、主張しているわけではもちろんない。そういう精神を示し得た「仲間」のいたことを誇りに思うべきだと(控え目に)言っているのだ。むろん、人間をそういう状況に追い込んだ「奴ら」の所業がまず非難されるべきであるとして***
まあ、収容所の外でも(生き延びるための)事情は同じようなものだったろうなあと、特に意外に感じることなく思ってしまうわけである。そこには、少なくとも崇高なものはなにもない。
ナチの犯罪と、それに手を貸した人間の内面を深く掘り下げ、そこから人間性の真実を探し当てようという姿勢はこの映画にはない。これらの要素をただ記号的に利用し、現代社会で平和裏に生きるわれわれが、瞬間的に同調しやすいよう、陳列しているにすぎない。実に非人道的な側面を持つ作品だ。これは、人間を物理的な存在として扱うという、ナチの犯した行為と同根の愚行ではないだろうか。
65/100(08/02/03見)
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