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[コメント] 生きる(1952/日)

手探りで生き方を探している人生において、ささやかな、だが確かなバイブルとなりうる作品。
G31

信心深い人間でもあれば別だろうが、バイブルのない、生きる指針の乏しい人生を生きている。毎日、手探りで生き方を探している(まあ、大げさに言えば)。

そんな中で本作は、小さな、でも確かな、人生のバイブルとなりうる作品だ。

主人公は、自身の死期を悟ると、困惑し、落胆し、彷徨して、咆哮する。そして自分にできることがあると気づくと、それを実行して、朽ちる。

つまりこういうことだ。

宇宙は、放っておけば、エントロピーが増大し、混沌(カオス)に陥る。だがその中に、宇宙そのものよりは小さな、秩序(コスモス)が散在する。これが宇宙の原理だ。

生物だってそうだ。われわれは、皆それぞれが、自律的に維持される小さな秩序だ。

われわれは、自身の身体や、所属する組織や、行使しうる権限を駆使して、すなわち自分の動かせるものを動かして、小さな秩序を作る。これが生きるということだ。

多くの生物は、もっぱら自己を複製してきた。それはかけがえのないことで、この上なく重要なことだ。だが人間には、それ以外のこともできる。

これが、この映画から私が受け取ったメッセージである。

<非難されるべきかもしれないこと>

もとより完璧な映画は存在しない。この映画で言えば、主人公はまる30年近く、無遅刻無欠勤を続けてきた。これは凄いことだ。むしろそういう人物だったからこそ、最後にああいう行動に出れたのだろう。なのにこの映画の中には、「30年間の無遅刻無欠勤」みたいなことを、軽んじる傾向が存在する。

あるいは、親の、子への思いが、一方的で、独り善がりのものとして描かれている。

しかしこれらは、観る側が分かっていればいいことだ。

90/100(13/03/29記)

(評価:★5)

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