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[コメント] 陰謀のセオリー(1997/米)

陰謀のエッセンスはもちろん陰謀だが、世間に流布する陰謀のほとんどは、世界の一方的な解釈によるものだ。(○か×か)
G31

 ジョン・レノンを撃ち殺したマーク・チャップマンが、動機のすべてはこの中にある、として示した(という)『ライ麦畑...』は、僕も(主人公と同じ)16、7の頃読んだ。『青春の門』の伊吹信介しゃんと同じ、(ああ...これはまったく俺のことだ)と感じる小説の代表格である。もちろんジョン・レノンを殺す理由なんてどこにも書いてない。ただそれ以来、アメリカの狂気と悲劇を説明するアメリカ裏面史の世界において、特別な地位を(あらためて)付与されたことは確かだ。この映画はそんな、アメリカの、裏面にまつわるエトセトラ、を集めて作られた映画だ。アメリカ社会をむしばむ陰謀そのものを描いた映画ではなく、アメリカ社会に漂う”陰謀の匂い”を映画化した作品である。

 そんなことより僕が印象に残っているのは、メル・ギブソンが己の妄想を勝手にもてあそぶ中で、ジュリア・ロバーツをヒロインに仕立て上げ、彼女に愛を告白したとき、ロバーツから、”あなたは私を愛していない(You don’t love me.)”とぴしゃりと言われてしまうシーンだ。”私はあなたのことが好きだ”と言ったのだとすれば、これはその人の感情を表現した言葉であるから、言われた当人から”いや、あなたは私のことを好きじゃない”などと言われる筋合いはない。感情は、自分ひとりで完結するものだから。だが愛は、互いの感情の存在を前提とし、お互いの中に互いの刻印を認め合うところからスタートする観念なので、自分の内面を知りうる立場にないメルが、自分を愛せるはずがない、という意味で、You don’t love me.と言ったのかな、と観た当時は受け止めた。

 それから年を経て、今はやっぱり不思議な台詞だなと感じている。だって、”愛”を感じている主体にとって、愛はやっぱり、愛じゃないか。”あなたが私のことを愛していると言うのは自由だが、私はあなたを愛していない”と言うのなら分かるが。人は世につれ世は人につれ、と言うとおり、私の考えも世につられているのかな。

(05/01/28記)

(評価:★3)

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