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[コメント] ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(2011/米)

僕の知るアスペルガーの子の多くは今もマイノリティであるが故の苦しみを背負って生きている
TM

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







以前は発達障がいの中でも「知的に高く、言語によるコミュニケーションには問題がないものの、世界を捉える感覚が多くのひととはまるで違うために心のコミュニケーションには困難を伴う状態」のことはアスペルガー症候群と呼ばれていた。しかし、2013年に米国精神神経医学会による世界的な精神疾患診断の基準が改訂され、それ以外の自閉症スペクトラムとひとくくりにASD(autism spectrum disorder)と呼ばれるようになり、アスペルガー症候群の名前は診断基準から消されてしまった。しかし、今回は敢えてアスペルガーの名前を使いたい。

9.11文学の金字塔と言われていることは後で知ったが、まったく事前情報なく視聴。

見始めてしばらくすると、他者(定型発達の)とのコミュニケーションが苦手で心情が理解しにくく、感覚過敏があり、細部へのこだわり、いわゆる形式張った大仰なしゃべり方(言い換えれば衒学的な物言い)、意に介さぬ一方的な会話、想定外の出来事への恐怖、そしてパニックとキーとなる行動特性が示され、おや、この子はアスペルガーなのかと気づく。劇中ではアスペルガーの検査を受け、「そうとは診断できない」と言われたとされているが、それも実際によくあること。

世界の捉え方が違うために、言葉は通じても発する言葉が意図せず相手を傷つけたり、あるいは傷つけられたりすることも多い。母親とのやりとりにおける絶望的なまでのすれ違いがまさにそれだ。互いにすれ違っていることに気づかずに状況は悪化の一途をたどる。

しかし、その状況は偶然手にした一本の鍵によって急展開を見せる。彼はそのこころの特性から多くの人はリストの数を見ただけで最初からしないだろうと思われる鍵についての調査をしないではいられない。丹念にひとりひとり会いに行き、決して開かないはずの鍵を手に、多くの人には開けられないドアを開けて、多くの人には踏み込めない領域にまで入り込んで行く。

そうして繋いだ絆が大人たちを変え、そして気づけば自分自身も変えていた・・・。調査報告書に最後に描かれたものはビルからの転落シーンの逆回転、以前の母親ならば目を背けただろう。そして報告書のタイトルはまさかの「Extremely Loud and Incredibly Close」。それを見て母は微笑んだ。調査を通して母は子どもを理解し、子も母親を理解した。まさに奇跡は起ったのだ。

・・・しかし、この映画は多くのひとの共感は得られないのではないかと心配する。他者が感じている世界をひとは知ることはできない。ただ自分に置き換えて想像してみることしかできないのだ。そこに感覚の違いが存在すれば親子でもわかり合うことは難しい。ましてや、無関係の多くの人にとっては・・・。

僕の知るアスペルガーの子の多くはマイノリティであるが故の苦しみを背負って生きている。そして、アスペルガーの名前は知っていても、その苦しみを理解する人はまだ多いとは言えない。9.11と絡めることで多くの米国人がこの映画に関心を持った。その関心が更にその先の理解に届くよう願ってやまない。

(評価:★4)

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