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[コメント] 天井桟敷の人々(1945/仏)

これは、舞台の傑作でもあり、映画の傑作でもある! 壮観なクライマックスは語り継がれるべき名場面であろう。
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 映画が演劇的であり過ぎる場合、映画における表現を活用しきれていないという理由から、それらはあまり好みのタイプではない。

 『天井桟敷の人々』は、第一幕「犯罪大通り」と第二幕「白い男」の二幕に分割される構成を取り、それぞれ開幕と閉幕の際に画面の中で幕が上がって物語が始まり、幕が下がって物語が終わる。台詞主体で進む展開、無言劇やシェイクスピアの「オセロー」を舞台上で演じる設定があるのを見ても、かなり演劇的な要素が詰まっている。

 だから好みではないのかと思われるだろうが、この映画の場合は、映画と演劇の間にある垣根を完全に超越しているように感じるのだ。銀幕の中に圧倒的なパワーが宿っている。画面内に狂気すら漂う天井桟敷の人々の威勢の良い叫び声や、サイレント期の映画を彷彿させるバティストのパントマイムなどは、紛れもなく“映画”の魅力を伝えている。これは、舞台の傑作でもあり、映画の傑作でもある!

 フランス映画の史上最高傑作の冠を掲げる映画なだけに、難解な芸術映画の類かと勘繰っていたが、意外にも大衆作品だ。それも途轍もない底力を感じる大衆作品。ナチス支配下で地下活動的に撮影されたという制約を、逆に発散させるかのように力が漲っている。ここまで脅威が満ち溢れる大衆映画は、ハリウッド映画でもそう簡単に登場しない。

 しかも、3時間を越える大作であるにも関わらず、ほとんど隙がない。冒頭、犯罪大通りの大規模なセットでの撮影から画面に引き込まれ、フレデリックとガランスの粋なやり取りで心を掴み、キャラクターの説明描写も退屈することなく見ることができる。天井桟敷の人々の威勢、大衆作品の中に潜む無言劇の芸術性、ガランスの周りの男たちが感じる嫉妬を「オセロー」のテーマに重ねて語る見事な描写、本当に隙がない。そして、大衆作品として飽きさせることなく全編を見せ切るのだ。

 ただ、あえて欠点としてあげるとすれば、あまりに隙がないことが気に障ってしまう。見ていて少し悔しくもあるのだ。

 それでも、クライマックスの祭りのシーン。人込みに埋もれながらガランスを追うバティストの姿はどこか人生の本質を感じさせる。それに加えてあの盛り上がるエキストラの数や巨大なセットでの撮影の壮観さ! そのまま唐突に幕が閉まるこのエンディングこそ、語り継がれるシーンであろう!

(評価:★5)

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