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[コメント] 仕掛人・藤枝梅安(2022/日)

寝間に仰向けで横たわる中村ゆりの真俯瞰。赤い敷布団。もうこゝから、照明の見応えは期待できると予想する。その通り、全編照明は凝りに凝っている。
ゑぎ

 オレンジの大きな月の造型も独創的だし、それに続けて紫がかった夜の屋外の光を連打するセンスもいいじゃないか。ただし、見終わった後の全般的感想を正直に記すと、主軸の役者たちの造型を除き、良いのはほとんど照明だけじゃないか、と思える出来だった。

 一番良くないのは、フラッシュバック過多だ。まずはこれに尽きる。フラッシュバックが入る度に、テレビドラマのようなチープな画になる(偏見を含んだ物云いだが)。例えば、石丸謙二郎を川へ引き摺り込むショットのカット割りがクドイなぁと思ったが、プロットが進んでもう一度フラッシュバックで同じショットを見せる。画面のチープさで云うと、少年時代の梅安と妹とのクダリが何度も出て来るが、その度に、がっかりさせられた。こんな回想の画面化は必要ないだろう。ちょっとした科白の回想だけで充分なのだ。なんなら鳥籠だけフラッシュバックするぐらいでいいと思う。ラストも、コタツで寝ている男(誰かはあえて伏せる)の後退移動ショットで暗転でいいのに、その後も、べたべたのフラッシュバックを見せて、酷い因果話として映画全体を印象付けてしまう。さらに、エンドロール後にもオマケがあるが(次作の予告みたいな)、このオマケ中もフラッシュバックがあり、これが酷い画面、酷い演出なのだ。観客によっては、次作を見る気が失せるオマケではないか(もちろん、私は多分見ると思いますが)。

 とかなりケチをつけたが、例えば、菅野美穂の造型が良いのは、彼女の過去は、ちょっとだけ語られるが、フラッシュバック無し、というところも良いのです。勿論、梅安に針をしてもらっているショットが、特権的な照明になっているというような工夫も指摘すべきだし、彼女のか細い声がいい、なんてことも書いておきたい。また、天海祐希も流石の押し出し。流石の演技。豊川悦司片岡愛之助も良いけれど、本作の見応えには菅野と天海がずいぶんと貢献していると云えるでしょう。

 主軸に対して、脇役はタイプキャストと思える造型が多く(特に板尾創路田山涼成)、あるいは、六角精児なんかメイクで面白く作っているのに、料亭万七で凄む場面なんかでは、臭いディレクションが露呈してしまってがっかりさせられるのだ。しかし、蔓(つる)の柳葉敏郎と、メチャクチャ強い浪人の早乙女太一は良いと思った。いずれにせよ、演技演出の責任者は演出家だし、演出家の仕事だと思われる。

 さらに、作劇は、スモールワールド(世間は狭い)攻撃が過ぎると云うべきだが、この点は、私はあまり気にしない。映画とはそういうものだからだ。尚、池波正太郎らしさを出すために、豊川と片岡の食事風景が何度も描かれており、これも本作のエンタメ度に大きく貢献する。料理監修には野崎洋光が参加している。

#備忘で舞台となっている場所(地名)等を記述(科白ナレーション等から)。

・梅安の居所は品川台町らしい。これは公式サイトに記載されている。富士山の見える港の遠景が何度も出て来るが、品川宿か。

・柳葉は本所両国の香具師の元締。天海の料理屋万七は、薬研堀。現在の東日本橋。

・梅安が往診に行く常在寺は白金にある。

・彦次郎−片岡は、浅草の楊枝職人。皆、かんたんに行き来しているように見えるが、けっこう広範囲なのだ。

(評価:★3)

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