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[コメント] 線は、僕を描く(2022/日)

ファーストカットは、横浜流星の顔アップ。涙目。これは期待できる始まりだと思った。彼が椿を画題にした水墨画を見て涙しているショットだ。そもそも、水墨画の揮毫というものが、それ自体、見世物的で、スペクタクルなのだ。
ゑぎ

 これは、映画に相応しい題材だと云えるだろう。さらに、観客、聴衆を集めた揮毫会は、まさに映画に近しい見世物だと感じた。本作では大きな画仙紙(キャンバスというか)をことごとく横長のカタチにし、シネスコサイズの画角にマッチするように演出している。いや逆に云うと、この揮毫会のあり方から、シネスコのアスペクト比が選択されたのかも知れない。一方、掛け軸は縦長なので、シネスコ向きでは無いと思った。だから、本作中、揮毫会を3度登場させ、それぞれ序盤、中盤、終盤の見せ場にしているのだろう(終盤はラストにちょっとだけだが)。

 と云うワケで、絵を描く場面、線を描く画面はとても見応えのある映画だ。対して、人物の描き方には違和感もあり、その点は、私はちょっと残念に感じられた。例えば、ヒロインの清原果耶は、ほとんどスッピンぽい化粧気の無いショットが多く、あんまり綺麗に撮られていないと思った。登場ショットからそう思う(逆光を取り入れて胡麻化しているが)。勿論、綺麗に撮られているショットもあるが、全体に、やはり、横浜流星の美しさの方が際立っているように感じた。また、横浜の同級生役で細田佳央太河合優実が出て来るが、細田はテレビドラマでよく見る煩いキャラのまゝだし、河合の使い方は相変わらず勿体無いと感じる。あと、湖山会の展覧会パーティーで登場する富田靖子のキャラも宜しくないと思うが、フランスの大臣の前での揮毫会における、聴衆の歓声の演出にも違和感を覚える。類型的過ぎる(テレビのバラエティー番組のサウンドエフェクトみたい)というか。この辺りの演出に、もっと繊細さが欲しいところだと思う。

 そんな中で、何と云っても江口洋介三浦友和が安定しており、この二人の役者に負うところ大の映画と云うべきだろう。私には、江口の揮毫シーンが本作のクライマックスで、後は蛇足とまでは云わないが、随分と映画の画力も落ち、テンションが下がったと感じられた。例えば、横浜のアパートの前で、夜、清原が座っており、二人で会話するシーンの動きの無さ。深夜バスで横浜の実家へ向かうシーンのお座なりな演出。誰もが予想できる帰結もいい加減だ。前半が良かっただけに、見るうちに期待感がどんどんはぐらかされて終わった気がする。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ひゅうちゃん けにろん[*]

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