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[コメント] 冬薔薇(ふゆそうび)(2022/日)

「なるほどそうだよ」と、生々しい説得力がある映画。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人生をなめた若者の末路は、そうなるわなあ、とか、こうやって「裏社会」の人たちがつくられていくのかと、納得させられるものがある。

何もかも中途半端な人間の行く末を、徹底的に描くとこうなるという感じで、この方がよっぽど現実味がある。普通なら、現実そのものを描いても物語にも映画にもならないように思えるが、それをきちんと映画にしたのは立派。

ラスト、伊藤健太郎がバーをたたき出されたすぐ後に、ヤクザもどきのかつての仲間が声をかけてくる。わざわざ横浜まで後をつけてきたのか、って話だが、そこが映画的な時間の節約だろう。

結局あの男はいずれは、翌日か、三日後か、一週間後か、ひょっとして一ヵ月後か、その辺で、ああなるだろうなと思わせるだけのものがある。だからその不自然さが余り気にならない。

それに映画的な時間の節約はもう一つあったな。伊藤健太郎が弁護士の女 和田光沙をたらし込むのも、すぐだったな。 余談だが彼女の描き方もなかなか、味があって良かった。

心に傷を抱えながら、何とか真っ当に生きようという姿を描く映画は多い。それはそれで良いものだが、本作のようにやっぱりうまくいかない、というのも生々しい。

なんとなく『ヤクザと家族』にも似ているが、あれよりは数段上の生々しさ、迫力とリアルさがある。両親の描き方も、そして叔父と従兄の描き方も工夫されていて、これが阪本順治監督の力量というものかと思わせる。

また、なんとなく心に引っかかるのは、伊藤健太郎と盲目の男とのシーンの台詞。「謝らないんじゃなくて、謝れないんだな」の一言だ。おそらく監督は、伊藤健太郎を自分の行いが何を引き起こしたか、引き起こしているかを、考えられなくなっているということを、言いたいんだろうなあと思える。

男がこけてなんか大変だとは思っても、それは自分のせいではない、よけなかったとか、投げた方向にいた男が運が悪かっただけとかしか、思わないのだろうし、だから自分が謝らないといけないとは、露ほども思い浮かばない、そういう人間ですよ、ということなのだろう。

そしてそういう人間だから、最後は自分に都合のいいようにしか考えられなくて、それが行き詰まると果てしなく落ちていくんですよ、ということを示しているのかなあ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ひゅうちゃん プロキオン14 けにろん[*]

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