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[コメント] パーフェクト・ケア(2020/米)

介護物かと思ったら『アウトレイジ』だった。まさに『仁義なき戦い』。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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面白かったです。情に流されたり半端な改心とかしない所がいい。全員悪人。まるで『アウトレイジ』。まさに『仁義なき戦い』。手口の鮮やかさはまるで『ミッション: インポッシブル』。あの脱出劇はまさにトム・クルーズ。身体は鍛えておくもんだな。

ロザムンド・パイクが親絡みで脅されて、「あんな毒親」と毒づく台詞があります。このたった一言で、彼女の「生い立ち」が透けて見える。また、ヤーさんの「はい、殺す」の引き金でもある。何故なら彼は母親を大切にしているから。決定的な価値観の相違。

ダイアン・ウィーストの家にロザムンド・パイクが訪れて初めて二人が対峙するシーン。ロザムンド・パイクが少し見下ろすような撮影で彼女の優位性を表現しています。小人のマフィアとの対峙の際は、あんなに身長差があるのに、対等な位置関係で二人を撮ります。「勝負あり!」って時はカメラが見下ろすんですね。しかも足なめで。足の下=地べたに這いつくばらせてやった、という構図です。しかし最後の交渉は対等な高さでカメラが捉える。こういう撮影、嫌いじゃない。

その一方で、前述したダイアン・ウィースト宅にロザムンド・パイクが訪れるシーン、どう見てダイアン・ウィースト視点で撮られていると思うんです。続く「施設」のシーンも同様。完全に「困惑するダイアン・ウィースト」視点の演出。

これ、どうなんだろう?

観客は婆さんに感情移入するじゃないですか。お婆さん可哀そう。ロザムンド・パイクは悪い奴だ。お前がダイアン・ウィーストを騙そうなんて百年早い。彼女を誰だと思ってるんだ。『ハンナとその姉妹』だぞ。

これは意図したものか、演出の失敗なのかは分かりません。もし意図だとしたら、「観客の感情を主人公から一度切り離す」という狙いなのでしょう。

彼女は情に流されたりしません。改心もしません。おそらく観客の同情も必要としないでしょう。観客はきちんと「こいつ悪い奴」と思って観た方がいい。中途半端なドラマあるある知識で「でも本当はいい人」「裏には悲しい事情が」なんて幻想を抱くと痛い目に合う。これは悪人を楽しむ映画であり、「彼女に感情移入する話じゃない」という監督の宣言だったのかもしれません。

感情移入できないので「どこに気持ちを持って行っていいのか分からない」という意見もあるでしょう。でも私は、野心を抱えてジタバタする様が、イマヘイ『にっぽん昆虫記』みたいで面白かったんですよ。ロザムンド・パイクは左幸子。

(2021.12.05 角川シネマ有楽町にて鑑賞)

(評価:★4)

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