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[コメント] 女王蜂(1977/日)

このシリーズでこれを言うのは今さらなんだけど、それでも尚オープニングの仲代達矢の学ラン姿はちょっと問題だと思う。
Myurakz

**ネタバレ注意**
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 今回の場合、最初から仲代の横恋慕は何となく見えているので、犯人に意外さは感じられません。また岸恵子の想いもずっと見え隠れしているため、特に驚くような展開も見せません。他にも沖雅也の登場理由にちょっと無理矢理さがあったり、殺人の動機にもう一つ共感できるものが欠けていたりと、まぁ展開としては正直褒める程のものでもない。何より仲代が「僕犯人ですよー。うつろな目をした僕が犯人ですよー」って演技してますからね、これはもうそういうものなんだろうと。

 そんな物語に対して、今回の市川崑の絵作りには「赤」を効果的に使ってやろうという意図が強く感じられます。物語の要所要所で、他の景色とは不釣り合いなほど鮮烈な赤が、画面内に大きく配置されてくるんです。茶会の毛氈、傘、紅葉、毛糸玉、鮮血。それらを大胆で鮮やかに用いることで観客の目を引き、また妖艶で緊張感のある画面を作ろうとしているんでしょう。実際派手な赤というのは観る側に何だか落ち着かない印象を与える色であり、だからこそラストが金田一の落とした「青い」毛糸玉のアップで締め括られるんです。あそこで初めて青が画面を占めることで、緊張から安堵への変化、つまりは事件の終息が色によっても表現されてるんです。

 きっとこれも、今シリーズで市川崑が続けてきた様々な絵作りの一環としての新しいチャレンジなんでしょう。実際そのチャレンジはところどころでハッとするほど美しい効果を上げており、また映画全体に不思議な上品さすら与えていたようには思えます。この監督は本当に「人目を引く」ことに長けている人なんでしょうね。ただやはり今までの作品が持っていた独特の躍動感に魅せられてしまった者としては、どうしても多少の物足りなさを感じてしまうのもまた事実です。結局のところ、その絵作りが物語の弱点を補うところまでは至らなかったように思えるんですよね。「惜しい」なんていうほど低いレベルではないのですが、やはりシリーズで追いかけると必然的にハードルが上がっちゃうんでしょうね。

(評価:★3)

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