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[コメント] 借りぐらしのアリエッティ(2010/日)

療養所から見えるモノ。自然、山、木々、植物、虫。そして人間たち。明日がない人間にはすべてうらやましいものに見え、今生きていることのすばらしさは分かりすぎるほど分かる。そんな少年の視点で描いためずらしいジブリ映画だ。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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どこか古い日本の私小説的な雰囲気さえ感じる静かな強さを感じさせる作品です。少年は虫のようにたくましくさわやかなアリエッティに「君たちは滅び行く種族だ」という。今までのトーンを壊しかねない荒々しい言葉である。じわじわ及び来る死を大方受け止めている少年の静謐さからは及びもつかないむしろ暴言でさえある。

でも少年は自分自身が滅び行くことを知っている。幼年でありながら死を意識した毎日を送って来ていた。しかも一番近しい母親からも見放されている。子供ではあるが、老成した人間でさえある。そんな少年が滅び行く種族と同一化しようとする心情は十分理解できる。

しかし、すべてに興味をなくしてただぼんやり読書だけを繰り返していた少年も、近々受ける手術がただの死への誘いではないことを、生きるという希望への荒々しいほとばしりだということが分かってくるのだ。これがこの映画の基本構造であり、サブテーマでもある。

心の映画であるという意味では静かな映画であるが、一方同時に映画手法としてはサスペンスを取り入れている。ちょっとした「暗くなるまで待って」のようなスリル感も十分であった。うまい作りだね。かなり僕は気に入りました。

でも悪役風情のあのお手伝いさんは、迫害される側からすると僕たち通常の人間の姿でもあるんですね。僕たち人間は、人間のための都合のいい環境をただ作っているに過ぎないのだ。人間からすればアリエッティは家に住む虫のようなものだ。僕たちはただキモイというだけでかれら虫たちを殺してしまうことも平気だ。植物に巣喰うだけで農薬でさっさと殺してしまう。それが人間の理論だ。

そんないつもの文明批判も多少この映画にはありました。でも、題名の「借り暮らし」ということから、アリエッティたちは何を人間にお返ししてたんでしょうか。見終わってもそれがかなり気になりました。だからこそ人間と共生出来なかったんでしょうか、、。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)甘崎庵[*]

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