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[コメント] ミスト(2007/米)

原作ファンでも評価は分かれるでしょうね。原作を超えた。という部分は確かにあります…が…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 待ちに待っていた作品だったが、やはりダラボン。出来はやはり素晴らしい。単なるB級SFにならないように細心の注意を払い、徹底して人の描写を中心とした結果だろう。お陰でショックシーンもさほど多用されず(これがとにかく苦手なので)、雰囲気で恐ろしさを伝えていき、何より怖いのは怪物とかではなく、人間こそがいちばん恐ろしいと言うことをしっかり伝えてくれている。原作の持ち味をしっかり保ちつつ、映画ならではの心理描写にしっかり持って行っているのは流石。原作は原作で良いのだが、映像化されると、又違った良さを感じることが出来る。どこかで本作を「原作を越えた作品」と称していた人がいたが、少なくとも描写においては、それに頷ける。特にキング原作のホラー作品でまともなのがほとんど無い現状では、本作の位置づけはとても高い。

 特に重要なのは、外からの攻撃に対し、人間が全く敵わないという状況。この事実はやがて人間同士の不信感へと転換していき、手にした武器も外敵ではなく、仲間同士に対して用いられていく。この過程が本当に怖い。しかも主人公は理性を持って行動しているつもりだが、果たしてそれが本当に正しかったのかどうか。実はそれさえも劇中には提示されない。これらは原作の持ち味にあったものだが、映画にすると更に明確化される。正しい行いが何であるのか、全く提示されないまま物語は終わってしまうのだ。この描写は実に素晴らしい。

 本当にそう言う意味では高評価なのだが、手放しで褒められないというか、私には受け入れられない部分も確かに存在する。

 「ラストの衝撃」とキャッチコピーで煽っていたのは伊達ではなかった訳か。ラストシーンは観ようによっては効きすぎたブラックジョークと観ることも可能なのだが、ハリウッドでは絶対タブー視されていたこと。それを敢えてやってしまったため、メジャーでは作れなかったのだろう。少なくとも、アメリカの映画では絶対に起こらない。と無意識にすり込まれているため、あれは驚かされる。

 実はそのシーンも描写としては素晴らしいのだ。あり得ないことを起こしたことで拍手を送る人もいるだろう。『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の安易なパクリにならなかっただけでも褒めて然り。

 しかし、私としては、これはちょっと受け入れがたい。

 原作は霧の中に走り出し、そこで延々と霧の中を突き進むのがラストシーンだった。これは一種の絶望なのかも知れないが、絶望の中に一筋の希望。という雰囲気を作り出していた。だが映画では、話が全く逆になってしまい、希望の中に、主人公だけが本物の絶望に直面してしまった。あのラストだったら、主人公は自殺するしか手が残されてないじゃん。救われているのに救われない。ちょっとこれはきつい。

 原作者のキング自身がこのラストは絶賛したと言うのだが、私はどうしてもその部分が引っかかって仕方ない。多分私自身の問題で、これだけはやらせたくなかったという思いがあったからだろう。それ故良い作品であることは認めるが、美意識の問題で高評価を与えることができない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)じゃくりーぬ McCammon ムク Keita[*] はしぼそがらす[*] おーい粗茶[*] Master[*] 狸の尻尾[*] CRIMSON[*]

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