長くて重たい原作のうち、レディ･ジョーカー絡みの部分だけを抽出して映像化した感じだけど、それはそれで成功してるようだし、経済にまったく興味のない私には実にわかりにくかった経済の裏事情のあたりをバッサリなくしたことで映画のなかで描くことを統一させてくれたのはよかった。でも・・・やっぱりね、物井清三は片目が見えないからこそ意味があるんだと思うんだよね、ちょっとモテそうな清三のどこにマグマのように噴火をまっているドロドロした怒りや憤怒を感じることができるだろうか。興行的にはまったく振るわないであろうけど、梅津栄さんのような、普通のオジサンにみえつつ、ときどき見せる鋭い眼光・・・みたいな人がよかった。

といはいえ、他のレディ・ジョーカーのメンバーはよかった。大杉さんや吹越さんはもうさすがの巧さだし、まったく期待していなかったからか、意外と吉川コウジが難しい役をちゃんと演じていたのには驚いた。もっといろいろな役をやってみればいいのにと思った。晴彦クンなどは、ヨウちゃんの雰囲気をうまく作っていて感心した。しかし、石原プロの力なんだろうけど、徳重聡クンにはこの役はかなり難しく、荷が重かったのではないだろうか。この役には、ちょっとゲイ的な、言ってみればエロい雰囲気が必要なのだ。そのちょっとエロいオーラがあるからこそ、ラストの吉川との直接対決のシーンに意味が出てくるんだよ。にらみ合う2人に、なんともいえない絆が見えるようでなければ。吉川がとても巧くそういうのを出しているのに、相手にまったくそういうものがなく、シーンとしてもかなりハズした感があった。

相手方の主役のほうはといえば、これもかなりイメージと違う感じ。清潔感という点ではかなりある方の人だと思うけど、現場の営業から社長になった男という感じではない。だいたい、背が高すぎる。（余計なお世話か）あまりに口数の少ない社長で、どんなふうに迷い、考え、決断したのかが見ているほうには不明。しかも、最後この社長が狙撃されず、ただの辞任→告訴というだけで終わってしまうのには、驚いた。

大杉演じる布川のつぶやきからついた「レディ・ジョーカー」という名前。それは物井たちだけでなく、大企業のトップでさえも見せしめに人生のジョーカーを引かされることがあり、そのことの方がかなり厳しいジョーカーだったりするという、シニカルな結末に続く。城山が、すべて終わったあとに当然のように射殺される皮肉さが、タイトルを深くさせるんだと思っていたのになぁ。